1.エルサレム滅亡の預言
・イエスが神殿を出られた時、弟子たちはその見事さを称えた。それに対して、イエスは神殿崩壊を預言される。
−ルカ21:5-6「ある人たちが、神殿が見事な石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスは言われた。『あなたがたはこれらの物に見とれているが、一つの石も崩されずに他の石の上に残ることのない日が来る』」。
・当時のエルサレム神殿はヘロデが再建した第三神殿で、壮麗な規模と美しさを誇り、人々はエルサレム神殿がある限り、神はエルサレムに住まいたまい、いつかはローマの支配から解放してくださると希望していた。その崩壊を預言することはイスラエルの滅亡預言と同じで、かつてエレミヤが迫害されたと同じ危険を含んでいた。
−エレミヤ26:4-8「『主はこう言われる。もし、お前たちが私に聞き従わず・・・預言者たちの言葉に聞き従わないならば・・・私はこの神殿をシロのようにし、この都を地上のすべての国々の呪いの的とする』。・・・祭司と預言者たちと民のすべては、彼を捕らえて言った『あなたは死刑に処せられねばならない』」。
・後のイエス裁判でもこのことが問題にされている(マタイ26:61)。弟子たちは驚いてイエスに「いつ、そのようなことが起こるのか」と尋ね、イエスはこれから起こることを預言された。
-ルカ21:8-16「私の名を名乗る者が大勢現れ、『私がそれだ』とか、『時が近づいた』とか言うが、ついて行ってはならない。・・・民は民に、国は国に敵対して立ち上がる。そして、大きな地震があり、方々に飢饉や疫病が起こり、恐ろしい現象や著しい徴が天に現れる。しかし、これらのことがすべて起こる前に、人々はあなたがたに手を下して迫害し、会堂や牢に引き渡し、私の名のために王や総督の前に引っ張って行く。・・・ あなたがたは親、兄弟、親族、友人にまで裏切られる。中には殺される者もいる」。
・預言の言葉は前587年のエルサレム滅亡を基にしている。イエスは不誠実なイスラエルが滅ぼされ、捕囚となったように、神の怒りの手が再び下されると考えておられる(ルカ19:41−44参照)。その預言はことごとく実現した。
−自分こそメシヤであると名乗る者が現れ、騒乱が相次いだ(45年チュダの反乱、66年ユダヤ戦争勃発)。
−イエス死後弟子たちは捕らえられ、裁判にかけられ、殺されていった(32年ステパノ殉教、44年ヤコブ殉教)。
−迫害はローマ帝国に及び、ペテロやパウロは64年ごろ、ローマで殉教した。
2.エルサレム滅亡の成就
・20節から預言は具体的になる。ルカ福音書は80年代に書かれ、ルカは紀元70年のエルサレム滅亡を目撃している。
−ルカ21:20「エルサレムが軍隊に囲まれるのを見たら、その滅亡が近づいたことを悟りなさい」。
・66年にローマからの解放を求めるユダヤ戦争が始まった。国粋主義者を中核とする植民地解放戦争だ。キリスト教徒たちはイエスの預言に従い、エルサレムを離れ、ヨルダン川東岸ペラに逃れた。
−ルカ21:21-22「そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。都の中にいる人々は、そこから立ち退きなさい。田舎にいる人々は都に入ってはならない。書かれていることがことごとく実現する報復の日だからである」。
・他方、ユダヤ教徒たちは、神が自分たちを救うために介入されると狂信的に期待し、最後までローマに抵抗し、そのために110万人が殺され、10万人が捕虜となったとヨセフスは書く。
−ルカ21:23-24「それらの日には、身重の女と乳飲み子を持つ女は不幸だ。この地には大きな苦しみがあり、この民には神の怒りが下るからである。人々は剣の刃に倒れ、捕虜となってあらゆる国に連れて行かれる。異邦人の時代が完了するまで、エルサレムは異邦人に踏み荒らされる」。
・それらのしるしの後、人の子は再臨するとイエスは言われた。ダニエル7:13の預言が基になっている。
−ルカ21:25-28「それから、太陽と月と星に徴が現れる。地上では海がどよめき荒れ狂うので、諸国の民は、なすすべを知らず、不安に陥る。・・・その時、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。このようなことが起こり始めたら、身を起こして頭を上げなさい。あなたがたの解放の時が近いからだ」。
・再臨は近い、これが初代教会の信仰の中心であり、人々は伝道に励んだ。パウロも自分が生きているうちに再臨があると考えていた(?テサロニケ4:15-17参照)。しかし、エルサレムが滅んでも主は再臨されなかった。ルカはその中で、いつかはわからないがやがて来る終末に備えて、「目を覚まして生きよ」と述べる。
−ルカ21:34-36「放縦や深酒や生活の煩いで、心が鈍くならないように注意しなさい。さもないと、その日が不意に罠のようにあなたがたを襲うことになる。・・・あなたがたは、起ころうとしているこれらすべてのことから逃れて、人の子の前に立つことができるように、いつも目を覚まして祈りなさい」」。
・私たちもまた緊張して、イエスの言葉に聴き従って生活していくことが求められる。
−ルカ21:32-33「はっきり言っておく。すべてのことが起こるまでは、この時代は決して滅びない。天地は滅びるが、私の言葉は決して滅びない」。