1.第七のラッパが吹かれた(11:15-19、12:1-6)
・第七のラッパが吹かれると、裁きの最終章が始まる。それは「キリストがこの世の王となられた」との宣言で始まる。地上ではローマ皇帝が王として君臨し、従わないキリスト教徒を迫害している。しかし天では既にキリストが即位されている。最後に勝利するのはローマの軍事力ではなく、主イエス・キリストの愛の力であるとの信仰告白だ。
-黙示録11:15「第七の天使がラッパを吹いた。すると、天にさまざまな大声があって、こう言った。『この世の国は、我らの主と、そのメシアのものとなった。主は世々限りなく統治される』」。
・その告白が天上の神殿に戻された契約の箱で保証される。契約の箱はエルサレム滅亡の時にエレミヤによって隠されていたが、終末の日に再び聖所に戻されるとの言い伝えがあった。ヨハネはその契約の箱を見た。
-黙示録11:19「そして、天にある神の神殿が開かれて、その神殿の中にある契約の箱が見え、稲妻、さまざまな音、雷、地震が起こり、大粒の雹が降った」。
・地上の教会は迫害の中で希望を失いかけている。いつまでこのようなことが続くのか。そのヨハネが、幻のうちに、女が身に太陽をまとい、月を足の下にして現れるのを見た。女は十二の星の冠をかぶる。12部族からなる旧約の民とそれを継承する12使徒に導かれる新約の民をこの女は表象している。
-黙示録12:1「天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた」。
・女は身ごもり、産みの苦しみのために叫んでいた。女が子を産んだらその子を食べてしまおうとサタンが待ち構えていた。サタンは古代では竜として表象されていた(カナン神話ではレビヤタン~イザヤ27:1)
-黙示録12:2-4「女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。また、もう一つのしるしが天に現れた。また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた」。
・女は子を産む。その子は鉄の杖で諸国を治めるメシアである(詩篇2:7-9)。子は天に引き上げられ守られた。
-黙示録12:5「女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた」。
・子を殺すことに失敗したサタンは女を殺そうとするが、女は荒れ野に逃げ、3年半の間守られる。地上では教会への迫害は今しばらく続くが、それも限られている(3年半、完全数7の半分)。教会は神の用意された場所で生き続けることが出来る。
-黙示録12:6「女は荒れ野へ逃げ込んだ。そこには、この女が千二百六十日の間養われるように、神の用意された場所があった」。
2.サタンが天から追放される(12:7-18)
・神はサタンと戦うように天使ミカエルに命じ、ミカエルはサタンと戦い、これを天上から追放する。ミカエルはイスラエルの守護天使と信じられていた(ダニエル12:1)。
-黙示録12:7-9「天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである」。
・メシアの到来と共にサタンは地に投出される。「天上においてサタンは既に敗れている」と地上のイエスも認識されていた。
-ルカ10:18-19「イエスは言われた『私は、サタンが稲妻のように天から落ちるのを見ていた。蛇やさそりを踏みつけ、敵のあらゆる力に打ち勝つ権威を、私はあなた方に授けた。だからあなたがたに害を加えるものは何一つない』」。
・天上ではサタンが敗れ去ったことを讃美する声が沸きあがる。
-黙示録12:10-12「私は、天で大きな声が次のように言うのを、聞いた。『今や、我々の神の救いと力と支配が現れた。神のメシアの権威が現れた。我々の兄弟たちを告発する者、昼も夜も我々の神の御前で彼らを告発する者が、投げ落とされたからである。兄弟たちは、小羊の血と自分たちの証しの言葉とで、彼に打ち勝った。彼らは、死に至るまで命を惜しまなかった。このゆえに、もろもろの天と、その中に住む者たちよ、喜べ。地と海とは不幸である。悪魔は怒りに燃えて、お前たちのところへ降って行った。残された時が少ないのを知ったからである』」。
・地上に落とされたサタンは荒野の女を殺そうと暴れるが失敗する。神が守られるからだ。
-黙示録12:13-16「竜は、自分が地上へ投げ落とされたと分かると、男の子を産んだ女の後を追った。しかし、女には大きな鷲の翼が二つ与えられた。荒れ野にある自分の場所へ飛んで行くためである。女はここで、蛇から逃れて、一年、その後二年、またその後半年の間、養われることになっていた。蛇は、口から川のように水を女の後ろに吐き出して、女を押し流そうとした。しかし、大地は女を助け、口を開けて、竜が口から吐き出した川を飲み干した」。
・キリストは天にあり、神の民は地上にいる。地上の神の民の苦難は続くが、それもまた神の加護の中にある。
-黙示録12:17「竜は女に対して激しく怒り、その子孫の残りの者たち、すなわち、神の掟を守り、イエスの証しを守りとおしている者たちと戦おうとして出て行った」。
3.ヨハネ黙示録12章の幻の意味
・エーゲ海のデロス島はアポロ神誕生の伝説の島である。竜神ピトンはゼウスの子アポロを殺そうとするが母レトは逃れ、アポロを生み、アプロはデルフィに戻って逆にピトンを退治する。「闇の支配に打ち勝ち、光の子が生まれ、闇を追い払う」というギリシャ神話を用いて、ヨハネは12章の物語を構想したと言われる。神の子キリストの誕生を阻止するために、母マリアを食べてしまおうというサタンの構想は破れたとヨハネは主張している。
・ヨハネはギリシャ神話を用いて、「メシアを産むために苦しむ女性と、そのメシアが生まれたらこれを食べようと待ち構えるサタン」を黙示録12章に登場させる。女はメシアの母マリアをさし、そのマリアはイスラエル12部族から生まれた(12:1「頭には12の星の冠をかぶり」)。女(マリア)は苦難の末にキリストを産み(12:5)、キリストは神の保護の下に、天の玉座に引き上げられる。そこにはエバの子孫がサタンの頭を砕くという創世記伝承も影響しているのであろう(創世記3:15「お前(蛇、サタン)と女、お前の子孫と女の子孫の間に私は敵意を置く。彼はお前の頭を砕き、お前は彼のかかとを砕く」)。
・地上には女(教会)が残され、サタンはこの教会を滅ぼすために手下である獣を海の中から呼び出す。13章には、「一匹の獣が海の中から上って来るのを見た。これには十本の角と七つの頭があった。それらの角には十の王冠があり、頭には神を冒涜するさまざまの名が記されていた。私が見たこの獣は、豹に似ており、足は熊の足のようで、口は獅子の口のようであった。竜はこの獣に、自分の力と王座と大きな権威とを与えた」(13:1-2)とある。この獣こそローマ帝国で、ローマは世界を征服して10人の王を立てて支配させ、7つの丘を持つローマ市を帝国の中心と定めた。そして、ローマ皇帝は、自分を「主」(キュリエ)、「救い主」(メシア)と呼ばせ、あたかも神であるかのように振舞っている。このローマに地上の権力を与えたのは竜(サタン)であるとヨハネは告発している。このサタンとの戦いが13章以下に展開される。また13章後半には第二の獣が現れる。この獣の名前は666といわれる。当時のアルファベットは数字の代用であり、NERON QESAR(皇帝ネロ)をあわせると666になる。ネロとその後継であるローマ皇帝こそ、獣の正体であるとヨハネは言う。68年に自死した皇帝ネロは実は生きていて、パルティア軍を率いて来襲するという復活伝承が背景にある。
・私たちがヨハネの描く世界を文字通りに理解することは危険である。それは紀元95年頃の小アジアの教会の抱えていた課題に対して牧会者ヨハネの思い描く世界で、神話や幻に満ちた世界だ。それをそのまま現代に適用するには慎重である必要がある。ただ同時にサタンに象徴される悪の力を過小評価してもいけない。サタンがいるかどうかは別にして、人間を苦しめる悪の力は間違いなく存在し、その悪の力がアウシュビッツの殺戮を引き起こし、原爆を投下させ、今日の経済格差を生み出している。悪の力は個人の罪より重い。そしてある時には国家が悪魔化する。戦前の軍国日本やナチス・ドイツの暴虐、共産党の絶対支配も国家の悪魔化かも知れないとの視点は必要だ。