1.失敗の後の成功
・最初のアイ攻略は失敗した。民がエリコでの勝利におごって少数の兵しか送らなかったこと、罪の贖いをせずに攻めた事が失敗を招いた。民は悔い改め、改めて全軍でアイ攻略に当たるように命じられる。
-ヨシュア記8:1-2「恐れてはならない。おののいてはならない。全軍隊を引き連れてアイに攻め上りなさい。アイの王も民も町も周辺の土地もあなたの手に渡す。エリコとその王にしたようにアイとその王にしなさい。ただし、分捕り物と家畜は自分たちのために奪い取ってもよい。あなたは、町を裏手からうかがうように伏兵を置け」。
・ヨシュアは前回の失敗で自信をなくしているが、主は「怖れるな」と言われた。戦いの前に「アイの王も民も町も周辺の土地もあなたの手に渡す」との約束が為されている。ヨシュアは指導者として再任された。失敗しても悔い改めれば、やり直しの機会が与えられる。ヨシュアは主の言葉通りに攻めるように民に命じた。
−ヨシュア記8:3-8「ヨシュアは全軍隊を率いて行動を起こし、アイへ攻め上った。ヨシュアは三万の勇士をえりすぐって夜の間に送り込み、彼らに命じた。『見よ、あなたたちは裏手から町をうかがう伏兵であるから、町からあまり離れず、全員、態勢を整えておきなさい。その他の全軍は私と共に町に近づく。敵がこの前と同様、我々を迎え撃とうと出て来たなら、我々は退却する・・・そうすれば彼らを町からおびき出せる。我々が退却している間に、あなたたちは待ち伏せしている所から出て、町を占領しなさい・・・町を取ったらこれに火を放ち、主の言葉どおり行いなさい。見よ、私はこう、あなたたちに命じている。」
・戦いは主の言葉通りになり、アイの全住民は滅ぼされた。
−ヨシュア記8:24-26「イスラエルは、追って来たアイの全住民を野原や荒れ野で殺し、一人残らず剣にかけて倒した。全イスラエルはアイにとって返し、その町を剣にかけて撃った。その日の敵の死者は男女合わせて一万二千人、アイの全住民であった」。
・イスラエルはアイの住民を皆殺しにした。この戦いは主への献げ物(ヘーレム)であって、献げ物は焼き尽くさなければいけない。単なる暴力行為ではなく、聖絶と呼ばれる礼拝行為であった事を理解する必要がある。
−申命記20:17-18「ヘト人、アモリ人、カナン人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人は、あなたの神、主が命じられたように必ず滅ぼし尽くさねばならない。それは、彼らがその神々に行ってきた、あらゆるいとうべき行為をあなたたちに教えてそれを行わせ、あなたたちがあなたたちの神、主に罪を犯すことのないためである」。
・滅ぼし尽す聖絶(ヘーレム)は宗教的概念であり、歴史そのままではない。おそらくイスラエルは時間をかけて(おそらく数百年の時の後)、平和的に約束の地を占領した。しかし定住が流血を伴ったのも事実である。
2.祝福と呪いの確認
・戦いが終わって、イスラエルはそこから30キロも離れているエバル山に向かい、そこで礼拝を持った。
−ヨシュア記8:30-31「ヨシュアはエバル山にイスラエルの神、主のための祭壇を築いた。この祭壇は、主の僕モーセがイスラエルの人々に命じ、モーセの教えの書に記されたとおり、鉄の道具を使わない自然のままの石で造られた。彼らはその上で、主に焼き尽くす献げ物と和解の献げ物をささげた」。
・それはモーセが前にヨシュアに命じておいたことであった。
−申命記11:26-29「見よ、私は今日、あなたたちの前に祝福と呪いを置く。あなたたちは、今日、私が命じるあなたたちの神、主の戒めに聞き従うならば祝福を、もしあなたたちの神、主の戒めに聞き従わず、今日、私が命じる道をそれて、あなたたちとは無縁であった他の神々に従うならば、呪いを受ける。あなたが入って得ようとしている土地に、あなたの神、主が導き入れられる時、ゲリジム山に祝福を、エバル山に呪いを置きなさい」。
・民はエリコの戦いとアイの戦いの双方を通じて、この祝福と呪いを、身を持って知った。だから今ここに礼拝を持ち、祝福と呪いについての主の言葉を聞いた。
−ヨシュア記8:34-35「ヨシュアは、律法の言葉すなわち祝福と呪いをことごとく、すべて律法の書に記されているとおりに読み上げた」。
・私たちの前には祝福と呪いが置かれている。選び取るのは私たちである。イエスは言われた「剣を取るな、剣を取る者は剣で滅びる」。それにもかかわらず、私たちが剣を取る時、私たちはそれ故に滅びる。
−申命記28:47-48「あなたが、すべてに豊かでありながら、心からの喜びと幸せに溢れてあなたの神、主に仕えないので、あなたは主の差し向けられる敵に仕え、飢えと渇きに悩まされ、裸にされて、すべてに事欠くようになる。敵はあなたに鉄の首枷をはめ、ついに滅びに至らせる」。
・地球温暖化が地上を砂漠化し、人類は飢餓に直面すると言われている。申命記の言葉を聞く必要があろう。
−申命記28:20-24「あなたが悪い行いを重ねて、私を捨てるならば、あなたの行う手の働きすべてに対して、主は呪いと混乱と懲らしめを送り、あなたは速やかに滅ぼされ、消えうせるであろう。 主は、疫病をあなたにまといつかせ、あなたが得ようと入って行く土地であなたを絶やされる・・・頭上の天は赤銅となり、あなたの下の地は鉄となる。主はあなたの地の雨を埃とされ、天から砂粒を降らせて、あなたを滅ぼされる」。
3.力による現状変更の危険性
・ トランプ米大統領は6日、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、テルアビブにある米大使館を移転すると発表した。歴代の米政権が混乱回避のために続けてきた政策措置を転換したことで、中東地域のバランスを揺るがす恐れが浮上している。今回の決定は、大統領の支持基盤である保守派やキリスト教福音派の強い要望があったと見られている。
・エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三大一神教の聖地であり、いずれの宗教にも重要な意味合いを持つ名所を抱える。数千年前から原住民による争いや、ローマ軍、十字軍、オスマン帝国や大英帝国による侵略が続き、現在はイスラエルとアラブ近隣諸国が対立している。現在のイスラエル政府はエルサレムを「不可分の永遠の首都」と位置づけるが、国際社会は首都とは認めていない。一方でパレスチナ自治政府は、イスラエルが占領する東エルサレムを国家樹立の際の首都と位置付けている。エルサレム旧市街には、ユダヤ教の「嘆きの壁」、イスラム教の「アルアクサ・モスク」「神殿の丘(イスラム名ハラム・アッシャリーフ)」などの聖地が並ぶ。キリスト教徒にとってもイエス・キリストが教えを述べ、処刑され、復活したとされる地があるなど、最大の巡礼地となっている。
・米国は1995年に制定された法律(Jerusalem Embassy Act)に基づいて、現状を維持してきた。同法の下、米大使館はテルアビブにとどまり、必要な業務をこなしていた。同法は1999年までに大使館をエルサレムに移転することを求めていたが、歴代大統領は安全保障上の理由から半年ごとに法執行を延期することができた。エルサレムへの大使館移転に関する法律は、実際的な解決策だった。今回の決定は世界中で反響を引き起こし、各国のリーダーが無責任で危険な措置だと非難している。米同盟国のヨルダンのアブドラ国王はトランプ大統領の発表を受け、「地域の安定と安全保障に対する危険な影響」について警鐘を鳴らした。
・ユルダンのフセイン前国王は、1967年の第3次中東戦争によって、東エルサレムをイスラエルに奪われた。アブドラ国王自身は、2013年にパレスチナ自治政府とのあいだで結ばれた協定の下、エルサレムにあるイスラム教とキリスト教の聖地の管理人となっている。今後しばらくは暴力と抗議活動が続くだろう。トランプ大統領は、実際に機能していた政策を転換してしまった。その影響はホワイトハウスを去った後もずっと響きわたることになるだろう。(米国のエルサレムへの大使館移転に関する問題点、2017.12.6ロイター論評から)