1.専制王政への批判
・ダビデはアブサロム軍を破り、エルサレムに凱旋するが、すぐにシェバの反乱が起こる。背景には出身のユダ族を優遇するダビデに対する、イスラエル諸部族の反感があった。
―?サムエル19:42-44「イスラエルの人々は皆、王のもとに来て、王に言った『何故我々の兄弟のユダの人々があなたを奪い取り、王と御家族が直属の兵と共にヨルダン川を渡るのを助けたのですか』。ユダの人々はイスラエルの人々に答えた『王は私たちの近親だからだ』・・・イスラエルの人々は『王のことに関して、私たちには十の持ち分がある』。・・・しかし、ユダの人々の言葉はイスラエルの人々の言葉よりも激しかった」。
・それを見てシェバは叫んだ「ダビデと分け合うものはない」。イスラエル人は同調してダビデの下から離れた。
―?サムエル20:1-2「ベニヤミン人ビクリの息子でシェバという名のならず者が居合わせた。彼は角笛を吹き鳴らして言った『我々にはダビデと分け合うものはない。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ』。イスラエルの人々は皆ダビデを離れ、ビクリの息子シェバに従った」。
・ダビデはシェバを撃つために、新しく任命した司令官アマサに軍の召集を命じるが、アマサは予定の日になっても戻らない。業を煮やしたダビデは近衛軍の将軍アビシャイに討伐軍の編成を命じる。ヨアブは疎んじられている。
―?サムエル20:4-7「アマサはユダの人々を動員するために出て行ったが、定められた期日に戻らなかった。ダビデはアビシャイに言った『我々にとってビクリの子シェバはアブサロム以上に危険だ。シェバが砦の町々を見つけて我々の目から隠れることがないように、お前は主君の家臣を率いて彼を追跡しなさい』。ヨアブの兵、クレタ人とペレティ人、および勇士の全員が彼に従ってエルサレムを出発し、ビクリの息子シェバを追跡した」。
・実際の指揮を取ったのは、アビシャイではなくヨアブであった。アマサはダビデに忠実ではなかった。ヨアブはアマサを見出し、これを殺した。
―?サムエル20:8-10「彼らがギブオンの大石の所にさしかかったとき、アマサが彼らの前に現れた。・・・ヨアブはアマサに声をかけ・・・剣でアマサの下腹を突き刺した。はらわたが地に流れ出て、二度突くまでもなくアマサは死んだ。ヨアブと弟アビシャイはビクリの息子シェバの追跡を続けた」。
・シェバの反乱はイスラエルの支持がなく、最終的に従ったのはシェバの同族だけであった。ヨアブ軍はイスラエルの北端アベルまでシェバ軍を追い詰め、町の人たちの協力を得て、シェバを殺した。反乱は終わった。
―?サムエル20:22「女は・・・ビクリの子シェバの首を切り落とさせ、ヨアブに向けてそれを投げ落とした。ヨアブは角笛を吹き鳴らし、兵はこの町からそれぞれの天幕に散って行った。ヨアブはエルサレムの王のもとへ戻った」。
2.サムエル記の伝えるもの
・シェバの乱は、個人の反乱ではなく、専制王政に対する反乱であった。アブサロムはダビデの政治を独裁と批判し(15:2-6)、シェバは「我々のための割当地がない」と叫んだ(20:1)。20:23以下にダビデ政権の閣僚名簿があるが、軍の指揮官は国民軍ではなく近衛軍のヨアブであり、人民を使役するための労役監督官まで置かれている。
―?サムエル20:23-26「ヨアブはイスラエル全軍の司令官。ヨヤダの子ベナヤはクレタ人とペレティ人の監督官。アドラムは労役の監督官。アヒルドの子ヨシャファトは補佐官。・・・」。
・神の委託を受けて王になった者は、最初は謙虚にその業を行う。ダビデさえも専制化する。サウルも最初は「私はイスラエルで最も小さな部族ベニヤミンの者です」と言い、王になるのをためらったが、やがては専制君主になる。ダビデの子ソロモンも、当初は謙虚に王としての務めを果たしていたが、晩年には驕り高ぶる者となった。
―?列王記11:3-5「彼には妻たち、すなわち七百人の王妃と三百人の側室がいた。この妻たちが彼の心を迷わせた。ソロモンが老境に入った時、彼女たちは王の心を迷わせ、他の神々に向かわせた。・・・ソロモンは、シドン人の女神アシュトレト、アンモン人の憎むべき神ミルコムに従った」。
・権力を与えられた時、人は神に仕える者から民を貪る者になる。サムエルはその危険を繰り返し民に警告した。
―?サムエル8:17-18「(王は)あなたたちの羊の十分の一を徴収する。こうして、あなたたちは王の奴隷となる。その日あなたたちは、自分が選んだ王のゆえに泣き叫ぶ。しかし、主はその日、あなたたちに答えてはくださらない」。
・ダビデでさえ、ソロモンでさえ、そうなる。人に仕えるためには、私たちも十字架を負ってイエスに従い続けるしかない。サムエル記はそう教える。そのために必要な試練として苦難が与えられる。苦難は祝福なのだ。
―マタイ20:25-28「異邦人の間では支配者たちが民を支配し、偉い人たちが権力を振るっている。しかし、あなたがたの間では、そうであってはならない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、いちばん上になりたい者は、皆の僕になりなさい。人の子が、仕えられるためではなく仕えるために、また、多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのと同じように。」