1.ダビデの長子アムノンの犯した罪
・ダビデは多くの妻たちに多くの子を生ませた(下3:2-5,5:13-16)。その家庭の乱れが、王位継承争いを血まなぐさいものとする。事の発端は、ダビデの長子アムノンが腹違いの妹タマルに恋情を抱いたことであった。
―?サムエル13:1-2「ダビデの子アブサロムにタマルという美しい妹がいた。ダビデの子アムノンはタマルを愛していた。しかしタマルは処女で、手出しをすることは思いもよらなかったので、妹タマルへの思いにアムノンは病気になりそうであった」。
・アムノンは計略を用いてタマルを部屋に呼び、無理やりに犯す。当時、異母兄妹の結婚は許されており、正式に妻とすることが出来たのに、アムノンはそうしなかった。彼が抱いたのはタマルへの愛ではなく、欲情だった。
―?サムエル13:10-14「アムノンはタマルを捕らえて言った「妹よ、おいで。私と寝てくれ」。タマルは言った「いけません、兄上。私を辱めないでください。イスラエルでは許されないことです。愚かなことをなさらないでください。・・・どうぞまず王にお話しください。王はあなたに私を与えるのを拒まれないでしょう」。アムノンは彼女の言うことを聞こうとせず、力ずくで辱め、彼女と床を共にした」。
・犯した後にアムノンはタマルを憎み、家から追い出す。それはタマルをもてあそび、捨てる行為だった。
―?サムエル13:15-17「アムノンは激しい憎しみを彼女に覚えた。その憎しみは、彼女を愛したその愛よりも激しかった。アムノンは彼女に言った「立て。出て行け」。タマルは言った「いいえ、私を追い出すのは、今なさったことよりも大きな悪です」。だがアムノンは聞き入れようともせず、自分に仕える従者を呼び「この女をここから追い出せ。追い出したら戸に錠をおろせ」と命じた」。
・聞いたダビデは怒ったが、何もしなかった。アムノンの行為は、ダビデが部下の妻バテシバに劣情を抱き、これを犯し、事の発覚を恐れて夫を殺した罪と同じだったからだ。このダビデの優柔不断が新しい罪を引き起こす。
―?サムエル13:21-22「ダビデ王は事の一部始終を聞き、激しく怒った。アブサロムはアムノンに対して、いいとも悪いとも一切語らなかった。妹タマルを辱められ、アブサロムはアムノンを憎悪した」。
2.ダビデの三男アブサロムの犯した罪
・タマルの同腹の兄アブサロムは妹に為されたアムノンの行為を知り、彼を憎んだが、2年間何もしなかった。彼は妹の復讐を考えながらも、自分より上位の王位継承権者アムノンを陥れる好機であることを視野に入れたからだ。
―?サムエル13:23-27「二年たった。エフライムに接するバアル・ハツォルにアブサロムの羊の毛を刈る者が集まった。アブサロムは王子全員を招待し、王のもとに行って願った「僕は羊の毛を刈る者を集めました。どうぞ王御自身、家臣を率いて、僕と共にお出かけください」。・・・アブサロムは懇願したが、ダビデは出かけることを望まず、ただ祝福を与えた。アブサロムは言った「それなら、兄アムノンを私たちと共に行かせてください」。
・アムノンが王の名代として収穫の祭りに来ることになり、この機会にアブサロムはアムノン殺害を計画する。
―?サムエル13:28-29「アブサロムは自分の従者たちに命じて言った「いいか。アムノンが酒に酔って上機嫌になったとき、私がアムノンを討てと命じたら、アムノンを殺せ。恐れるな。これは私が命令するのだ。勇気を持て。勇敢な者となれ」。従者たちは、アブサロムの命令どおりアムノンに襲いかかった」。
・アブサロムは言う「恐れるな、私が命令するのだ」。聖書の記述であるのに、ここには神の名は一言も出ない。かつてヨシュアは「神共にいますゆえに恐れるな」といったが、アブサロムの口からはその言葉は出ない。
―ヨシュア記1:9「私は、強く雄々しくあれと命じたではないか。うろたえてはならない。おののいてはならない。あなたがどこに行ってもあなたの神、主は共にいる」。
・ダビデは皇太子アムノンの死を知って泣く。アブサロムはダビデを恐れて亡命する。
―?サムエル13:36-37「彼らは声をあげて泣き、王も家臣も皆、激しく泣いた。アブサロムは、ゲシュルの王アミフドの子タルマイのもとに逃げた。ダビデはアムノンを悼み続けた」。
・時の経過と共に、ダビデはアブサロムを許すようになるが、兄を殺したアブサロムに信頼を置けず、そのことがやがてアブサロムの反乱を引き起こす。ダビデがウリヤに犯した罪が次々に新しい罪を招く。
―ヤコブ1:14-15「人はそれぞれ、自分自身の欲望に引かれ、唆されて、誘惑に陥るのです。そして、欲望ははらんで罪を生み、罪が熟して死を生みます」。
・神無き世界では、力ある者は無いものを殺し、支配する。サムエル下13章に神の名は一度も登場しない。
―マタイ20:25-27「あなたがたも知っているように、異邦人の間では支配者たちが民を支配し、偉い人たちが権力を振るっている。しかし、あなたがたの間では、そうであってはならない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、いちばん上になりたい者は、皆の僕になりなさい」。