1.神の裁き~七つの鉢の災い
・七つの鉢が傾けられ、次々に災いが下される。七つのラッパにおける審きは人類の三分の一の限定的なものであったが、今回は全ての人に災いが及ぶ。しかし、単なる裁きではなく、救いのための悔い改めが呼びかけられている。
-黙示録16:1-4「私は大きな声が神殿から出て、七人の天使にこう言うのを聞いた『行って、七つの鉢に盛られた神の怒りを地上に注ぎなさい』。そこで、第一の天使が出て行って、その鉢の中身を地上に注ぐと、獣の刻印を押されている人間たち、また、獣の像を礼拝する者たちに悪性のはれ物ができた。第二の天使が、その鉢の中身を海に注ぐと、海は死人の血のようになって、その中の生き物はすべて死んでしまった。第三の天使が、その鉢の中身を川と水の源に注ぐと、水は血になった」。
・裁きは続き、太陽は熱を強めて人々を焼き苦しめ、獣の支配する国では疫病や災害により人々は苦しみもだき、ユーフラテス川の水も枯れ、東方パルティア軍の軍勢が防波堤を超えて首都ローマを侵攻する。
-黙示録16:8-12「第四の天使が、その鉢の中身を太陽に注ぐと、太陽は人間を火で焼くことを許された。人間は、激しい熱で焼かれ、この災いを支配する権威を持つ神の名を冒涜した・・・第五の天使が、その鉢の中身を獣の王座に注ぐと、獣が支配する国は闇に覆われた。人々は苦しみもだえて自分の舌をかみ、苦痛とはれ物のゆえに天の神を冒涜し、その行いを悔い改めようとはしなかった。第六の天使が、その鉢の中身を大きな川、ユーフラテスに注ぐと、川の水がかれて、日の出る方角から来る王たちの道ができた」。
・悪霊たちはこの神の攻勢に対抗するべく、ハルマゲドンと呼ばれるところに王たちの軍勢を集めた。
-黙示録16:13-16「私はまた、竜の口から、獣の口から、そして、偽預言者の口から、蛙のような汚れた三つの霊が出て来るのを見た。これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の王たちのところへ出て行った。それは、全能者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを集めるためである・・・汚れた霊どもは、ヘブライ語で『ハルマゲドン』と呼ばれる所に、王たちを集めた」。
・第七の災いで審きは成就する。
-黙示録16:17-19「第七の天使が、その鉢の中身を空中に注ぐと、神殿の玉座から大声が聞こえ、「事は成就した」と言った。そして、稲妻、さまざまな音、雷が起こり、また、大きな地震が起きた。それは、人間が地上に現れて以来、いまだかつてなかったほどの大地震であった。あの大きな都が三つに引き裂かれ、諸国の民の方々の町が倒れた。神は大バビロンを思い出して、御自分の激しい怒りのぶどう酒の杯をこれにお与えになった」。
2.黙示録16章の裁きを私たちはどう理解するか
・黙示録16章の裁きを私たちはどのように読むのか。直接的にはローマの皇帝支配に対する裁きであるが、現在の地球環境破壊を見れば、この裁きの出来事は今なお進行していると思える。私たちはこれらの環境変化を神の裁きと見るのか、自然現象と見るのかが問われている。信仰の課題ととらえた時には、教会の伝道活動の一つに、「地球環境汚染に対する悔い改めの呼びかけ」が新たに加わろう。
-第一の鉢・悪性の腫れ物=アトピー、花粉症、アレルギー性病変、コロナウィルスによる感染拡大
-第二の鉢・海の生き物の死=海洋汚染によるさんご礁死滅や赤潮他の異変
-第三の鉢・水が血になる=水俣病や足尾鉱毒問題、水資源枯渇、地球砂漠化
-第四の鉢・太陽の炎熱化=地球温暖化に伴う気候環境悪化
-第五の鉢・蝗やさそりの害=広島・長崎・チェルノヴィリの放射能汚染、原子力汚染
-第六の鉢・悪の軍隊の集結=戦争被害の拡大(兵士の死から市民の死へ、さらには地球の滅びへ)
-第七の鉢・大地震=地震・津波・噴火・台風の被害拡大
・その時、誤読に対する警戒を強める必要があろう。4節ハルマゲドンとは「メギドの山」の意味で、イスラエルの古戦場である。ヨハネは旧約に有名なメギドの原で戦いが起こるとの託宣を受けて記述した。オウム真理教・麻原彰晃は「ハルマゲドン」を最終戦争と考え、獣=ローマ=国家権力が自分たちへ攻撃を準備しているとして、防御のためにサリンを製造し、地下鉄にサリンをまく等の事件を引き起こした。誤読を避けるためには、歴史の文脈の中で理解し、現在の状況を考える知恵が必要である。何よりも神が愛であることを知ることが求められる。
-ピリピ1:9-10「私は、こう祈ります。知る力と見抜く力とを身に着けて、あなたがたの愛がますます豊かになり、本当に重要なことを見分けられるように」。
- ハルマゲドンと世界史
・黙示録的な表象を代表する言葉が「ハルマゲドン」である。このハルマゲドンがやがて終末のしるしとなり、異端的信仰を持つ人々はハルマゲドンから救済されるために、信仰に励めと語る。
-エホバの証人とハルマゲドン「教義によると、神は唯一神エホバであり、キリストは神の子である。現代の世界(宗教組織、政治組織を含む)は悪魔サタンの支配下にあり、やがて終わりの日にキリスト率いる神の軍団との大戦争(ハルマゲドン)により人類に対するサタンの支配を終わらせるとしている・・・エホバの証人は神の王国について次のように規定している。神の王国は1914年を起点に、天でイエス・キリストを王として設立された。そのキリストの再臨は「しるし」であり、目には見えない。エホバの証人が規定する神の王国は、全面的に支持し到来を期待している新しい社会、またそれを実現する政府である。ハルマゲドン後、地上は千年の時を経てかつて創世記に記述されているような楽園に回復される。楽園を回復する作業を行うのは、ハルマゲドンを生き残った者、復活された者たちである」(Wikipediaから)。
・「ハルマゲドン」とは、ヘブライ語で「メギドの山」を意味する。メギドとはパレスチナ中部の地名である。旧約聖書によると、このメギドの周辺で、少なくとも三回の 決定的な戦闘が行われた。先ず、士師記 4 章には、女預言者デボラがメギドでカナンの王シセラを破ったと記されている。次に、ユダの王アハズヤが将軍イエフと戦って死んだのがメギドである(列王記下9:27) 。また、ユダ王国で宗教改革を実行したヨシヤ王は、このメギドでエジプトのファラオ・ネコを迎え撃とうとして戦死した(列王記下23:29) 。こうした民族の記憶を呼び起こしながら、黙示録の著者ヨハネは 「 終末時に起こる決定的な戦い 」 について書いた。
・「多くの人はこの物語を自分の置かれた境遇の中で聞いた」とモルトマンは「希望の倫理」の中で語る。
「イギリス宗教改革の黙示論的伝統において、キリストとアンチ ・ キリストの戦い、神と悪霊との戦い、信仰者と不信仰者の戦いが重要であった。ヨーロッパの中でイギリスほど黙示録の注解書が多く書かれた国はない。イギリスのピューリタン革命やアメリカへの移民が黙示録的終末観を背景に為されたことは歴史的な事実である」。
・丹治陽子は「アメリカ的想像力における千年王国論的終末論」という論文の中で語る。
-「黙示録21章は、神と悪魔の最終戦争で、悪魔は完全に敗北し、それによってそれまで悪魔が支配していた古い世界があとかたもなく崩壊し、そのあとに絶対的な救済の新しい世界、神の国(「新しい天、新しい地」21:1 )が始まると預言する。ここから千年王国論が生まれる。それは全人類の最後の審判以前に、キリストがよみがえった聖人たちと共に地上に戻り、この地上で千年にわたって栄光ある王国を統治するという信仰である。キリストが統治する千年王国というこの地上のユートピアは、サタン= アンチ ・ キリストを暴力的な闘争において打倒することによってのみ達成されるという点で、革命的な性格を帯びている。実際、17世紀なかばのイギリスにおいて 爆発的流行の時代を迎えた。この千年王国論がピューリタン革命を推進する力ともなっていく。と同時に、この千年王国の思想はピルグリム・ファーザーズと呼ばれるピューリタンたちによって新世界アメリカにも移植される。彼らはアメリカを「ヨハネ黙示録」にある「新しい天、新しい地」として意識するようになるのである」。
-「終末論的千年王国論とは、善と悪の戦いの場であるこの世で、両者の間に最終戦争(ハルマゲドン)が起こり、悪の完全な敗北によって世界は徹底的に破壊し尽くされ、そのカオスの後に新しい神の王国が出現するという。歴史の一つのサイクルが終わって新しい世界が始まるということである。若さと新しさを崇拝するアメリカ、常に荒野との接点を求めてフロンティアに挑戦するアメリカ、世界のアンチ ・ キリストたちに対してキリスト教徒としての正義を追求し続けるアメリカ、このような現代アメリカのさまざまな姿のなかに、千年王国論的な終末論と初期ピューリタンの原体験がいまだに息づいている」。