1.12人の派遣と5000人の養い
・イエスは巡回伝道の途中で、弟子たちを派遣された。洗礼者ヨハネは既に殺され、イエスにも同じ運命が迫っている。残された時は少ない。イエスは自分を後継する弟子たちを訓練する必要を感じられたのであろう。
−ルカ9:1-5「イエスは十二人を呼び集め、あらゆる悪霊に打ち勝ち、病気をいやす力と権能をお授けになった。そして、神の国を宣べ伝え、病人をいやすために遣わすにあたり、次のように言われた『旅には何も持って行ってはならない。杖も袋もパンも金も持ってはならない。下着も二枚は持ってはならない。どこかの家に入ったら、そこにとどまって、その家から旅立ちなさい。だれもあなたがたを迎え入れないなら、その町を出ていくとき、彼らへの証しとして足についた埃を払い落としなさい』」。
・イエスの評判は、ヨハネを殺したヘロデ・アンテイパスを悩ませた。支配者は自分よりも人気の高い者を憎む。ヘロデはイエスの命をも狙い始めた(ルカ13:31−33)。イエスはヘロデを逃れて、ベッサイダに退かれた。預言者はエルサレムで死ぬ、今はまだ死の時ではないからだ。しかし、群集はイエスを慕って追いかけてきた。
−ルカ9:10-11「使徒たちは帰って来て、自分たちの行ったことをみなイエスに告げた。イエスは彼らを連れ、自分たちだけでベトサイダという町に退かれた。群衆はそのことを知ってイエスの後を追った。イエスはこの人々を迎え、神の国について語り、治療の必要な人々をいやしておられた」。
・日が翳ってきた、群集を解散させねばならないと弟子たちは進言したが、イエスは人々を空腹のまま帰らせず、彼らを養われた。自分のためには奇跡を拒否されたが(4:3-4参照)、人々の必要な時にはその力を用いられる。
−ルカ9:16-17「イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで、それらのために賛美の祈りを唱え、裂いて弟子たちに渡しては群衆に配らせた。すべての人が食べて満腹した」。
2.山上の変貌と地上の混乱
・この奇跡を見て、弟子たちはイエスこそメシアであると信仰を告白する。彼らは神の国の祝宴を垣間見たのだ。
−ルカ9:20「イエスが言われた『それでは、あなたがたは私を何者だと言うのか』。ペトロが答えた『神からのメシアです』」。
・メシア告白をした弟子たちに、イエスは思いがけない受難予告をされる。イエスは自らを人の子と言われる。栄光のメシアではなく、苦難の僕であることを明らかにされるためだ。
−ルカ9:21-22「イエスは弟子たちを戒め、このことをだれにも話さないように命じて、次のように言われた『人の子は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日目に復活することになっている』」。
・イエスが苦難のメシアであれば、弟子たちも苦難を受ける。イエスは、それでも従うかと弟子たちに問われる。
−ルカ9:23-26「イエスは皆に言われた『私について来たい者は、自分を捨て、日々、自分の十字架を背負って、私に従いなさい。自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、私のために命を失う者は、それを救うのである。人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の身を滅ぼしたり、失ったりしては、何の得があろうか』」。
・弟子たちにはその覚悟はない。イエスが祈るために山に登られ、そこでモーセやエリヤと会われる神秘体験をされた時(9:28-36)、従う三人は意味を理解せず、残った九人は地上で混乱の中にあった。
−ルカ9:37-40「一同が山を下りると、大勢の群衆がイエスを出迎えた。そのとき、一人の男が群衆の中から大声で言った『先生、どうか私の子を見てやってください。一人息子です。悪霊が取りつくと、この子は突然叫びだします。悪霊はこの子にけいれんを起こさせて泡を吹かせ、さんざん苦しめて、なかなか離れません。この霊を追い出してくださるようにお弟子たちに頼みましたが、できませんでした』」。
・イエスが再度の受難予告をされても弟子たちの関心は自分にしかない。誰が偉いかで弟子たちは論争する。
−ルカ9:43-46「人々は皆、神の偉大さに心を打たれた。イエスがなさったすべてのことに、皆が驚いていると、イエスは弟子たちに言われた『この言葉をよく耳に入れておきなさい。人の子は人々の手に引き渡されようとしている』。・・・弟子たちの間で、自分たちのうちだれがいちばん偉いかという議論が起きた」。
・ある弟子はイエスが招いても生返事をし、別の者はこの世の出来事に心が動かされている。イエスは孤独の中で、エルサレムを目指して進まれていく。私たちはどうか、イエスの弟子であるかが問われている。
−ルカ9:51-61「イエスは、天に上げられる時期が近づくと、エルサレムに向かう決意を固められた。・・・別の人に『私に従いなさい』と言われたが、その人は『主よ、まず、父を葬りに行かせてください』と言った。・・・また、別の人も言った『主よ、あなたに従います。しかし、まず家族にいとまごいに行かせてください』」。