1.教条主義的にヨブを論難するゾパル
・ヨブのビルダテへの反論(19:2,あなたがたはいつまで私を悩ますのか)を聞いて、三人の友人の一人ゾパルが、怒りに燃えて、二度目の弁論をする。それがヨブ記20章である。ゾパルの弁論は相変わらず応報論の上に立つ。「神は正しい者を祝福し、悪人を裁かれる。ヨブが今、苦難(裁き)の中にあるとしたら、それはヨブが悪を(罪)を犯した故である」とゾパルは責める。彼はヨブの苦難を見て、「罪を犯したに違いない」と決めつける。
−ヨブ記20:5-8「神に逆らう者の喜びは、はかなく、神を無視する者の楽しみは、つかの間にすぎない。たとえ彼が天に達するほど、頭が雲に達するほど上って行っても、自分の汚物と同様、永久に失われ・・・夢のように飛び去り、夜の幻のように消えうせ、だれも見いだすことはないだろう」。
・応報論はゾパルだけの論理ではなく、旧約全体を貫く論理だ。詩編37編の記述はゾパルの弁論と同じ論調だ。
−詩編37:9-11「悪事を謀る者は断たれ、主に望みをおく人は、地を継ぐ。しばらくすれば、主に逆らう者は消え去る。彼のいた所を調べてみよ、彼は消え去っている。貧しい人は地を継ぎ、豊かな平和に自らをゆだねるであろう」。
・応報論では悪人は滅び、彼の子は物乞いをする。ゾパルは、「ヨブの子たちもかつて父親が貪った貧しい人に物乞いせざるを得ない」と決めつけるが、ヨブは貧者を貪ったことはなく、子どもたちも皆死んでいる。ここに個別の事情を見ない教条主義の「一般化」の怖さがある。
−ヨブ記20:9-10「彼を見ていた目はもう彼を見ることなく、彼のいた所も二度と彼を見ない。その子らは貧しい人々に償いをし、子孫は奪った富を返済しなければならない」。
2.裁くな
・応報論の罪は、「病人や苦難者を罪人」として裁いてしまう点にある。そして応報論を唱える人は「自分は正しい」という立場に立つ。イエス時代も多くの罪人が「宗教的に作られた」。イエスが怒られたのもこの点であった。
−マタイ7:1-3「人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである。あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、自分の量る秤で量り与えられる。あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか」。
・ゾパルは「悪人は必ず滅ぶ」と自説を繰り返す。彼は自分の弁舌に酔っているかのようだ。
−ヨブ記20:12-16「悪が口に甘いからと舌で抑えて隠しておき、惜しんで吐き出さず、口の中に含んでいれば、そのパンは胃の中に入って、コブラの毒と変わる。呑み込んだ富は吐き出さなければならない。神は彼の腹からそれを取り上げられる。彼の飲んだのはコブラの毒。蝮の舌が彼を殺す」。
・ゾパルは「悪人の繁栄は続かず、必ず滅びる」という。しかしそうだろうか。この地上で栄えている人は皆正しい人なのか。そうとは思えない。ヨブもそう感じている。私たちもそう思う。世の中は応報論では動いていない。
−ヨブ記21:7-9「なぜ、神に逆らう者が生き永らえ、年を重ねてなお、力を増し加えるのか。子孫は彼らを囲んで確かに続き、その末を目の前に見ることができる。家は平和で、何の恐れもなく、神の鞭が彼らに下ることはない」。
・ゾパルは弁論を続ける「悪人が骨折って得たものも、みな棄てなければいけない。何故ならその富はすべて貧しい人から奪い取ったものだからだ」と。「富の形成は貧乏人からの搾取による」、マルクス主義者のような言葉だ。
−ヨブ記20:18-22「労して獲たものをも呑み込まずに返し、商いで富を得ても楽しむことはない。なぜなら、貧しい人々を虐げ見捨て、自ら建てもしない家を奪い取ったから。その腹は満足することを知らず、欲望から逃れられず、食い尽くして、何も残さない。それゆえ、彼の繁栄は長くは続かず・・・すべて労苦する手が彼を襲う」。
・ゾパルはとどめを刺すかのように神の裁きについて語る。神は必ず悪を滅ぼされると。彼はヨブの破滅を待ち望んでいるかのようだ。これが教条主義者の怖さだ。イエス時代のパリサイ人もそうであった。
−ヨブ記20:26-29「暗黒が彼の宝を待ち構え、吹き起こされたのでもない火が彼をなめ尽くし、天幕に残っているものをも滅ぼし尽くす。天は彼の罪を暴き、地は彼に対して立ち上がる。神の怒りの日に、洪水が起こり、大水は彼の家をぬぐい去る。神に逆らう者が神から受ける分、神の命令による嗣業はこれだ」。
・多くの人の思い描く裁きは「敵が滅び、自分は救われる」というものだ。でも本当にそうなのだろうか。ダニエルはシリア帝国の迫害の中で死んでいく者に、「正しい者は復活する。悪は滅びる」と伝えた。でもこれは真理なのだろうか。単なる人間の報復感情ではないのか。私たちは応報論から解放される必要がある。
−ダニエル12:1-3「その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する。その時まで、苦難が続く、国が始まって以来、かつてなかったほどの苦難が。しかし、その時には救われるであろう。お前の民、あの書に記された人々は。多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。ある者は永遠の生命に入り、ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。目覚めた人々は大空の光のように輝き、多くの者の救いとなった人々は、とこしえに星と輝く」。