1.エレミヤのバルクへの遺言
・ユダ王国は前587年にバビロンによって滅ぼされた。歴史上、多くの民族が滅ぼされ、歴史の中に埋没して行った。しかしイスラエルは滅びず、50年後に彼らは捕囚地より帰還した。彼らを支えたのはエレミヤの回復預言であった。「時が来ればエルサレムに帰ることが出来る」という預言は捕囚地で繰り返し読まれ、彼らの支えとなった。この預言を記録し、編集し、バビロンの地まで伝えたのが弟子バルクである。エレミヤ45章はそのバルクへのエレミヤの遺言を記す。
・バルクはユダの貴族出身であり、父親や兄弟は政府の高官であり、彼もやがてはそうなると考えていた。彼はエレミヤの救国預言に感動し、その弟子となり、彼の預言を筆記し、エレミヤの代わりに神殿で代読した。そのことによって「民は悔い改め、ユダは救済される」と思った。王国滅亡18年前の前605年のことであった。
−エレミヤ36:4-8「バルクはエレミヤの口述に従って、主が語られた言葉をすべて巻物に書き記した。エレミヤはバルクに命じた『私は主の神殿に入ることを禁じられている。お前は断食の日に行って、私が口述したとおりに書き記したこの巻物から主の言葉を読み、神殿に集まった人々に聞かせなさい・・・この民に向かって告げられた主の怒りと憤りが大きいことを知って、人々が主に憐れみを乞い、それぞれ悪の道から立ち帰るかもしれない』」。
・しかし時の王エホヤキムはその預言書を暖炉の火で燃やし、エレミヤとバルクを捕えるように命じ、二人は身を隠した。
−エレミヤ36:22-26「王は宮殿の冬の家にいた。時は九月で暖炉の火は王の前で赤々と燃えていた・・・王は巻物をナイフで切り裂いて暖炉の火にくべ、ついに、巻物をすべて燃やしてしまった・・・王は、王子エラフメエル、アズリエルの子セラヤ、アブデエルの子シェレムヤに命じて、書記バルクと預言者エレミヤを捕らえようとした」。
・その後もエレミヤは預言を続けたが、誰もエレミヤの言葉に聞かず、逆にエレミヤを逮捕し、投獄した。この時、バルクは弱音を吐いた。その言葉が45章1−3節の言葉であろう。
−エレミヤ45:1-3「ユダの王ヨシヤの子ヨヤキムの第四年に、ネリヤの子バルクは、預言者エレミヤの口述に従ってこれらの言葉を巻物に書き記した。そのとき、エレミヤは次のように語った。『バルクよ、イスラエルの神、主は、あなたについてこう言われる。あなたは、かつてこう言った。“ああ、災いだ。主は、私の苦しみに悲しみを加えられた。私は疲れ果てて呻き、安らぎを得ない”』」。
・エレミヤは主の言葉を伝えた「あなたは自分に大きなことを期待しているが、そのような期待を抱くな。しかしあなたはあなたの使命を持つ。その使命を果たすまでは主はあなたの命を守って下さるだろう」と。
−エレミヤ45:4-5「バルクにこう言いなさい。主はこう言われる。私は建てたものを破壊し、植えたものを抜く。全世界をこのようにする。あなたは自分に何か大きなことを期待しているのか。そのような期待を抱いてはならない。なぜなら、私は生けるものすべてに災いをくだそうとしているからだ、と主は言われる。ただ、あなたの命だけは、どこへ行っても守り、あなたに与える」。
2.自分の為すべきことを為せ
・それから18年、国は滅び、生き残った人々はバビロン軍を恐れてエジプトに逃げ、エレミヤもバルクも無理やりにエジプトに連れ去られた。エレミヤは「ユダに戻れ、神の怒りを受け入れよ」と預言するが、人々は聞かなかった。
−エレミヤ44:15-16「男たち、そこに多く集まって居合わせていた女たち、更にはエジプトの上エジプトに住む人々がこぞってエレミヤに反論して言った。『あなたが主の名を借りて我々に語った言葉に聞き従う者はない』」。
・エレミヤの最後の預言も人々に受け入れられることはなかった。エレミヤはやがてその地で死んだと思われる。エレミヤの死を見届け、バルクは自分の師の生涯の意味、そして自分の働きの意味を考え込まざるを得なかった「意味があったのだろうか」と。そして18年前の師の預言を思い出した「あなたは自分に大きなことを期待しているが、そのような期待を抱くな。しかしあなたはあなたの使命を持つ。その使命を果たすまでは主はあなたの命を守って下さるだろう」。この後、バルクは再びカナンの地に戻り、さらにはバビロンまで行ったと伝えられている。
・聖書外典バルク書はその次第を記す。バルク書はギリシャ語で書かれ、後代のものだといわれるが、エレミヤ亡き後のバルクの動向をうかがわせる資料であろう。それによれば、バルクはその使命を果たしてエレミヤの預言をバビロンの地に伝え、その預言がイスラエルを再生させた。彼もまたエレミヤの弟子として「大きな使命」を果たしたのだ。
−バルク書1:1-5「本書は・・・ネリヤの子バルクがバビロンで書いたものである。それはカルデア人がエルサレムを占領し、焼き払ってから五年目、かの月の七日のことである。バルクは本書をユダの王エホヤキムの子エコンヤや民全体に聞かせた・・・人々は涙を流し、断食して主に祈った」。
・イエスは世を去る前に弟子たちに言われた「人々が私を迫害したのであればあなた方も迫害する。しかしくじけるな。私が得ている神との平和をあなた方も得るであろう」。私たちは「神との平和」をいただいた、この方に従っていく。
-ヨハネ16:33「これらのことを話したのは、あなたがたが私によって平和を得るためである。あなたがたには世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。私は既に世に勝っている」。