1.ダビデのエルサレム帰還
・ダビデ軍がアブサロム軍に勝った。アブサロムを支持したイスラエル諸部族は協議し、ダビデを再び王と仰ぐこととした。部族の生き残りのためである。しかし、本心からダビデに服従したのではないことがやがて明らかになる。
―?サムエル19:9-11「イスラエル諸部族の間に議論が起こった『ダビデ王は敵の手から我々を救い出し、ペリシテの手からも助け出してくださった。だが今は、アブサロムのために国外に逃げておられる。我々が油を注いで王としたアブサロムは戦いで死んでしまった。なぜあなたたちは黙っているばかりで、王を連れ戻そうとしないのか』」。
・ダビデはこのことを聞くと、ユダ部族の長老たちに使いを出し、イスラエル部族よりも先に迎えに来るように指示する。驚くべきことに、アブサロム軍の司令官だった裏切り者アマサを、王国の司令官にするという譲歩も行う。
―?サムエル19:12-14「王は、祭司ツァドクとアビアタルのもとに人を遣わしてこう言った『ユダの長老たちにこう言ってくれ。あなたたちは王を王宮に連れ戻すのに遅れをとるのか。あなたたちは私の兄弟、私の骨肉ではないか。王を連れ戻すのに遅れをとるのか。アマサに対してはこう言ってくれ。お前は私の骨肉ではないか。ヨアブに代えてこれから先ずっと、お前をわが軍の司令官に任じないなら、神が幾重にも私を罰してくださるように』」。
・そこにあるのは冷徹な計略である。出身母体のユダ族の指示を取り付けるために、これまで忠誠を尽くしてきた将軍ヨアブさえもダビデは切り捨てる。かつての神の人ダビデは、今は計略の人になっている。
―?サムエル19:15「ダビデはユダのすべての人々の心を動かして一人の人の心のようにした。ユダの人々は王に使者を遣わし、『家臣全員と共に帰還してください』と言った」。
・この主導権争いが新しい内紛を生む。帰還のダビデに従ったのは、ユダの全兵士とイスラエルの半数の兵士であった。イスラエルの残りはダビデの帰還を喜んでいない。ダビデは老王に過ぎない。民心はダビデから離れていた。
―?サムエル19:41-44「王はギルガルへ進んだ。キムハムも共に行き、ユダの全兵士もイスラエルの兵士の半分も王と共に進んだ。イスラエルの人々は皆、王のもとに来て、王に言った『なぜ我々の兄弟のユダの人々があなたを奪い取り、王と御家族が直属の兵と共にヨルダン川を渡るのを助けたのですか』。ユダの人々はイスラエルの人々に答えた『王は私たちの近親だからだ。なぜこの事で腹を立てるのだ。我々が王の食物を食べ、贈り物をもらっているとでも言うのか』。イスラエルの人々はユダの人々に言い返した『王のことに関して、私たちには十の持ち分がある。ダビデ王に対してもお前たちより多くの分がある。何故私たちをないがしろにするのだ。私たちの王を呼び戻そうと言ったのは私たちが先ではないか』。しかし、ユダの人々の言葉はイスラエルの人々の言葉よりも激しかった」。
2.神の人から老政治家になったダビデ
・イスラエル部族の反発は、ダビデに対する反乱となっていく。人々は叫んだ「我々はダビデと分け合うものはない」。
―?サムエル20:1-2「そこにベニヤミン人ビクリの息子でシェバという名のならず者が居合わせた。彼は角笛を吹き鳴らして言った『我々にはダビデと分け合うものはない。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ』。イスラエルの人々は皆ダビデを離れ、ビクリの息子シェバに従った」。
・やがて反乱は鎮圧されるが、不和の根は残る。イスラエル10部族はソロモン死後、ソロモンの子・レハブアム王の即位に反対し、自分たちの王を擁立して王国から独立する。南北王国の分裂である。
―?列王記12:16-17「イスラエルのすべての人々は・・・王に言葉を返した『ダビデの家に我々の受け継ぐ分が少しでもあろうか。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ。ダビデよ、今後自分の家のことは自分で見るが良い』。こうして、イスラエルの人々は自分の天幕に帰って行った」。
・ここに王政の弱さがある。優れた王もやがてはただの老人になる。神はこのことを、サムエルを通して警告されていた。しかし、民は敵から身を守るために強い王を求めた。
―?サムエル8:11-18「あなたたちの上に君臨する王の権能は次のとおりである。まず、あなたたちの息子を徴用する。それは、戦車兵や騎兵にして王の戦車の前を走らせ・・・るためである。また、あなたたちの娘を徴用し、香料作り、料理女、パン焼き女にする。また、あなたたちの最上の畑、ぶどう畑、オリーブ畑を没収し、家臣に分け与える。・・・こうして、あなたたちは王の奴隷となる。その日あなたたちは、自分が選んだ王のゆえに、泣き叫ぶ。しかし、主はその日、あなたたちに答えてはくださらない」。
・ダビデもかつては神を頼って生きた。そのダビデさえ、神から離れる。神を神とする。そこにしか救いはない。
―詩篇115:2-9「私たちの神は天にいまし、御旨のままにすべてを行われる。国々の偶像は金銀にすぎず、人間の手が造ったもの。口があっても話せず、目があっても見えない。耳があっても聞こえず、鼻があってもかぐことができない。手があってもつかめず、足があっても歩けず、喉があっても声を出せない。偶像を造り、それに依り頼む者は皆、偶像と同じようになる。イスラエルよ、主に依り頼め。主は助け、主は盾」。