江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2002年6月23日説教(マルコ6:14-29、ヘロデとヨハネ、二つの生き方)

投稿日:2002年6月23日 更新日:

1.イエスの評判がヘロデにヨハネの死を思い起こさせる。

・イエスはガリラヤを巡回され、多くの病人をいやし、神の国が近づいたことを宣教された。大勢の群衆がイエスの周りに集まって来た。そのイエスの評判がガリラヤの領主ヘロデの下に届いた。マルコ6:14-15「さて、イエスの名が知れわたって、ヘロデ王の耳にはいった。ある人々は『バプテスマのヨハネが、死人の中からよみがえってきたのだ。それで、あのような力が彼のうちに働いているのだ』と言い、他の人々は『彼はエリヤだ』と言い、また他の人々は『昔の預言者のような預言者だ』と言った。」
・ヘロデは自分が殺したヨハネが生き返ったのだと恐れた。マルコ6:16「ところが、ヘロデはこれを聞いて、『わたしが首を切ったあのヨハネがよみがえったのだ』と言った。」
・先に、ヨハネはヘロデにより捕えられていた。それはヨハネがヘロデの結婚を批判した為である。マルコ6:17-18「このヘロデは、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤをめとったが、そのことで、人をつかわし、ヨハネを捕えて獄につないだ。それは、ヨハネがヘロデに、『兄弟の妻をめとるのは、よろしくない』と言ったからである。」
・このヘロデはヘロデ大王の子ヘロデ・アンテイパスである。へロデ大王の死後(紀元前4年)、ユダヤは三人の子が分割統治したが、その一人、アンテイパスはガリラヤの王になった。彼はナバテヤ王アレタの娘を妻としていたが、腹違いの兄ヘロデ・ピリポの妻ヘロデヤと恋仲になり、妻を離別し、ヘロデヤと結婚した。これは明らかな律法違反(姦淫の罪)であり、ヨハネはこれを批判したため、ヘロデにより捕えられてヨルダン川東岸のマケロ要塞に幽閉されていた。


2.ヘロデの苦悩

・ヘロデはヨハネを捕えたが殺すことは出来なかった。彼は自分を批判するヨハネを憎んだが、同時にヨハネが神から遣わされた預言者であると信じていたからである。―マルコ6:20「それはヘロデが、ヨハネは正しくて聖なる人であることを知って、彼を恐れ、彼に保護を加え、またその教を聞いて非常に悩みながらも、なお喜んで聞いていたからである。」
・他方、妻のヘロデヤはこのヨハネを憎み、殺したいと思っていた。しかし、ヘロデが同意せず、殺せなかった。ヘロデの誕生日に祝宴が開かれ、踊ったヘロデヤの娘サロメはその褒美にヨハネの首を要求する。ヘロデは困ったが他の人々の手前もあり、それを許す。こうしてヨハネは殺された。―マルコ6:26-28「王は非常に困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人たちの手前、少女の願いを退けることを好まなかった。そこで、王はすぐに衛兵をつかわし、ヨハネの首を持って来るように命じた。衛兵は出て行き、獄中でヨハネの首を切り、盆にのせて持ってきて少女に与え、少女はそれを母にわたした。」

3.ヘロデの生き方とヨハネの生き方

・ここに二人の人がいる、一人はバプテスマのヨハネ。彼は王の不義を批判したため、捕えられ、殺された。他方、ヨハネを殺したヘロデは自分のしたいことをした。彼は王として宮殿に住み、きれいな婦人がいれば奪って妻とし、批判するものがいれば捕え、殺した。
・ヨハネがもしヘロデ王の不義を批判しなければ捕えられなかった。彼はヘロデに対して「兄弟の妻をめとるのはよくない」(マルコ6:18)と批判し、人々に対して「蝮の子よ、悔改めに相応しい実を結べ」と叫んだ(マタイ3:8)。神の言葉を預かったものはそれが自分にとって苦難を招くことが解っていても語らざるを得ない。何故ならば、「もしわたしが、「主のことは、重ねて言わない、このうえその名によって語る事はしない」と言えば、主の言葉がわたしの心にあって、燃える火の/わが骨のうちに閉じこめられているようで、それを押えるのに疲れはてて、耐えることができません。」(エレミヤ20:9)ためである。
・他方、殺したヘロデの側には迷いがあった。彼はヨハネを捕えたが殺すことは出来ずにいた。一つは彼自身がヘロデヤとの結婚を後ろめたく思っていただろうし、またヨハネを預言者と信じていた。しかし、ヘロデヤにせかされて殺した。殺した後ヘロデはヨハネの亡霊に悩まされている。正しいものを殺したという罪の意識、ヨハネの死後も執拗に迫る預言者の声。だからイエスの評判を聞いた時、自分が殺したヨハネが生き返ったとだと恐れている。
・ここに二つの人生がある。一方はこの世的な成功者だ。この世的な成功は富と快楽をもたらすが心の平安はもたらさない。ヘロデはヘロデヤを娶って幸せになっただろうか。夫は、妻ヘロデヤは一度夫を裏切った女であるからまた自分をも裏切るかも知れないという疑惑を持ったであろうし、妻は夫が残酷な男であるから何時気が変って自分が殺されるかも知れないと恐怖したであろう。現にヘロデ・アンテイパスの父ヘロデ大王は自分の妻マリアンメを不倫の疑いで処刑している。このような夫婦に愛と平和は臨まない。
・また、権力を維持する為には、常に不安と緊張が強いられる。アンテイパスはガリラヤの領主であったがそれは支配者ローマからの委任統治であり、彼自身には何の領地権も無い。したがって彼が娘サロメに領地の半分を与えようと約束したのは彼の空威張りであった。彼はその統治期間中、細心の注意を払ってローマに忠誠を尽くすが、最期は失脚し、流刑の地で生涯を終える。この世的な成功を維持することは難しいし、またいつかは終る。
・他方にこの世的な不成功者がいる。この世と調和しないものは迫害され殺される。ヨハネは首を切られ、イエスは十字架につけられた。そして私たちがイエスに従いたいと願うなら私たちもこの世的には不成功者になるかもしれない。


4.イエスの十字架を背負って生きる

・キリストに従うとは彼の十字架を私たちも背負うことだ。イエスは言われる。―マタイ10:16-22「わたしがあなたがたをつかわすのは、羊をおおかみの中に送るようなものである。・・・人々に注意しなさい。彼らはあなたがたを衆議所に引き渡し、会堂でむち打つであろう。またあなたがたは、わたしのために長官たちや王たちの前に引き出されるであろう。それは、彼らと異邦人とに対してあかしをするためである」。ヨハネは文字どうりこの道を歩んだ。また、ヨハネだけではなく、多くのクリスチャンがこのような道を歩んできた。
・私たちはある時、ヘロデのように生きるのか、ヨハネのように生きるのかの選択を迫られる時が来る。人がこの世で楽しく生活し、また天国にも行きたいと願うのは欲である。この世を選ぶか断念するか、最期はどちらかである。私たちはヘロデのような王ではないし、ヨハネのような預言者でもない。しかし、私たちの中にヘロデ的要素とヨハネ的要素がある。ヘロデのように自分のしたことは悪いことと知りながら、それを改めたくても改められない自分がいる。他方、ヨハネのように自分の損得を離れても為すべきことをしたいという願う自分もいる。その中途半端な私たちがあるとき、ヘロデを選ぶか、ヨハネを選ぶかと迫られる時が来る。その時どうするのか。
・戦前の日本において、教会は天皇か神かとの選択を迫られた。戦前の教会は、礼拝の前に天皇の住む宮城を拝謁することを求められた。多くの教会では、天皇は日本の国家元首であり、日本人が天皇を崇拝することは偶像崇拝ではないとした。その中でホーリネス教会だけは天皇も人であり、人である限り罪人であり、キリストの贖罪なしでは救われないと説教した。このことが不敬罪になるとして戦前のホーリネス教会は弾圧を受け、多くの牧師・信徒が投獄された。60年前の日本において、ヨハネとして生きるのかヘロデとして生きるのかとの決断を迫られる時があった。
・このような決断は今でもある。例えば医療ミスで患者が死に、病院全体でこれを隠そうとする時、私たちがその病院の関係者であればどうするのか、職を賭してそれを告発するのか。勤めている会社が東南アジアから輸入した鶏肉を、その方が高く売れるからとして鹿児島産と偽って出荷した時、私たちはどうするのか。あるいは日本の病院で大きな手術をする場合、医師に数百万円単位の依頼金を支払うのが当然視され、支払わないときちんと見てもらえないと言う、その時私たちはどうするのか。私たちは毎日の生活の中で、多くのヘロデ的部分と妥協しながら生きているのだ。しかし、キリスト者として妥協してはいけない一つの線がある。ある時、ヨハネになるか、ヘロデになるかが問われるのだ。この事を私たちは認識する必要がある。このヘロデの物語は悪い王様の話ではなく、私たち自身に関わる話なのである。
・―ヨハネ15:19-20「もしあなたがたがこの世から出たものであったなら、この世は、あなたがたを自分のものとして愛したであろう。しかし、あなたがたはこの世のものではない。かえって、わたしがあなたがたをこの世から選び出したのである。だから、この世はあなたがたを憎むのである。わたしがあなたがたに『僕はその主人にまさるものではない』と言ったことを、おぼえていなさい。もし人々がわたしを迫害したなら、あなたがたをも迫害するであろう。」
・キリストに従って生きるとは、このような時が私たちにも来るかも知れないことを意味する。ヨハネはヘロデの王宮の独房に入れられ、罪に定められ、助かる望みも無い。しかし、ヨハネの側には不安は無い。彼は平安である。何故ならば神がヨハネと共にいてくださるからだ。富や地位で心の平安は買えない。心の平安は神が共にいてくださる時に与えられる。ヨハネとヘロデの物語は私たちにそれを教える。

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