１．イエスの宣教準備
・マルコ福音書は紀元65-70年ごろに書かれたとされる最初の福音書だ。紀元64年、ペテロもパウロもローマで殉教した。指導者を失い、混乱する教会を励ますためにマルコは伝承をまとめた。それはイエスの伝記ではなく、福音を伝える信仰告白である。イエスは「神の国」を宣べ伝えた。弟子たちは「イエス」を宣べ伝えた。
−マルコ1:1「神の子イエス・キリストの福音の初め」。
・マルコはイエスこそメシア＝キリストであったことを三つの出来事を通して書き始める。最初はメシアの先駆者として来ると預言されたエリヤ＝洗礼者ヨハネの証しである。
−マルコ1:7-8「彼はこう宣べ伝えた『私よりも優れた方が、後から来られる。私は、かがんでその方の履物のひもを解く値打ちもない。私は水であなたたちに洗礼を授けたが、その方は聖霊で洗礼をお授けになる』」。
・ヨハネは「神の国は近づいた」と宣言し、悔い改め運動を行った。イエスはガリラヤでその評判を聞き、ヨハネの下に来て、彼から洗礼を受けられた。その時、霊がイエスに降った。メシアの二つ目のしるしである。
−マルコ1:9-11「イエスはガリラヤのナザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。すると、『あなたは私の愛する子、私の心に適う者』という声が、天から聞こえた」。
・メシアの三つ目のしるしがサタンへの勝利であった。洗礼を受けてすぐ、イエスは荒野に導かれた。その荒野でイエスはサタンの試みに勝たれた。あなたがたも試みにくじけるなとマルコは教会にメッセージを送っている。
−マルコ1:12-13「それから、“霊”はイエスを荒れ野に送り出した。イエスは四十日間そこにとどまり、サタンから誘惑を受けられた。その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた」。
２．イエスの宣教の始め
・イエスは「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい」としてその宣教を始められた。
−マルコ1:14-15「ヨハネが捕らえられた後、イエスはガリラヤへ行き、神の福音を宣べ伝えて、『時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信じなさい』と言われた」。
・イエスの第一声はマタイの伝えるヨハネの言葉と同じだ。またヨハネ逮捕による教団崩壊が独立の契機になった。人間的に見れば、イエスは師ヨハネの業の後継者としてその宣教を始められた。ヨハネはまさに先駆者だ。
−マタイ3:1-2「洗礼者ヨハネが現れて、ユダヤの荒れ野で宣べ伝え、『悔い改めよ。天の国は近づいた』と言った」。
・マルコはガリラヤ伝道を始められたイエスが、その周囲に集まった者の中から弟子を選ばれたと伝える。
−マルコ1:16-17「イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、シモンとシモンの兄弟アンデレが湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師だった。イエスは『私について来なさい。人間をとる漁師にしよう』と言われた」。
・しかし人は見ず知らずの人に、職業を捨ててまでついていくことは出来ない。ヨハネ福音書は、最初の弟子たちは同じヨハネ教団にいた者たちだったと伝える。ヨハネの方が史実に近いと思われる。
−ヨハネ1:35-37「その翌日、また、（バプテスマの）ヨハネは二人の弟子と一緒にいた。そして、歩いておられるイエスを見つめて、『見よ、神の小羊だ』と言った。二人の弟子はそれを聞いて、イエスに従った」。
・「私に従ってきなさい」という招きに弟子たちは応えた。マルコは弟子たちが職も家族も捨てて従ったと記す。
−マルコ1:18-20「二人はすぐに網を捨てて従った。また、少し進んで、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、舟の中で網の手入れをしているのを御覧になると、すぐに彼らをお呼びになった。この二人も父ゼベダイを雇い人たちと一緒に舟に残して、イエスの後について行った」。
・何故イエスに従ったのか。イエスと共にいれば自分もひとかどのものになれると思ったからだ。
−マルコ10:35-41「ゼベダイの子ヤコブとヨハネが進み出て、イエスに言った『先生、お願いすることをかなえていただきたいのですが。・・・栄光をお受けになるとき、私どもの一人をあなたの右に、もう一人を左に座らせてください』・・・ほかの十人の者はこれを聞いて、ヤコブとヨハネのことで腹を立て始めた」。
・人が本当にイエスに従うことが出来るのは、復活のイエスに出会った時だ。
−ヨハネ20:28-29「トマスは答えて『私の主、私の神よ』と言った。イエスはトマスに言われた『私を見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである』」。
・イエスが弟子たちに「人間をとる漁師にしよう」といわれたのは、復活後の弟子たちの経験かもしれない。
-マタイ28:18-19「イエスは、近寄って来て言われた『私は天と地の一切の権能を授かっている。だから、あなたがたは行って、すべての民を私の弟子にしなさい』」。