1.ヤコブのハラン到着
・1ヶ月の旅の後、ヤコブはハランに到着し、井戸でいとこのラケルに出会う。
―創世記29:9-12「ヤコブが彼らと話しているうちに、ラケルが父の羊の群れを連れてやって来た。彼女も羊を飼っていたからである。ヤコブは、伯父ラバンの娘ラケルと伯父ラバンの羊の群れを見るとすぐに、井戸の口へ近寄り石を転がして、伯父ラバンの羊に水を飲ませた。ヤコブはラケルに口づけし、声をあげて泣いた。ヤコブはやがて、ラケルに、自分が彼女の父の甥に当たり、リベカの息子であることを打ち明けた。ラケルは走って行って、父に知らせた」。
・ラバンは甥のヤコブを親族として迎え入れた。
―創世記29:13-14「ラバンは、妹の息子ヤコブの事を聞くと、走って迎えに行き、ヤコブを抱き締め口づけした。それから、ヤコブを自分の家に案内した。ヤコブがラバンに事の次第をすべて話すと、ラバンは彼に言った『お前は、本当に私の骨肉の者だ』」。
・ヤコブは叔父に自分の過去の経歴を、兄をだまし、父をだまして、故郷を追われてきたことを、「すべて話した」。神と出会った者は、隠すべき過去はなくなる。なぜなら神はすべてをご承知だからだ。
-創世記28:13-15「見よ、主が傍らに立って言われた『私は、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなり、西へ、東へ、北へ、南へと広がっていくであろう。地上の氏族はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福に入る。見よ、私はあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、私はあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。私は、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない』」。
2.ヤコブの結婚
・ラバンには二人の娘がいたが、ヤコブは美しい妹娘ラケルに惹かれ、彼女のために7年間働くことを申し出る。娘は父の財産であり、嫁を得るためには金銀を払うか、労働奉仕を行うかが必要であった。そしてヤコブは払うべき金銀を持っていなかった。
―創世記29:16-19「ラバンには二人の娘があり、姉の方はレア、妹の方はラケルといった。レアは優しい目をしていたが、ラケルは顔も美しく、容姿も優れていた。ヤコブはラケルを愛していたので『下の娘のラケルをくださるなら、私は七年間あなたの所で働きます』と言った。ラバンは答えた『あの娘をほかの人に嫁がせるより、お前に嫁がせる方が良い。私の所にいなさい』」。
・7年後にヤコブはラケルを求めた。しかし、与えられたのはレアであった。かつてヤコブはエソウを騙して長子権を得たが、今度は叔父ラバンに騙された。
―創世記29:21-23「ヤコブはラバンに言った『約束の年月が満ちましたから、私のいいなずけと一緒にならせてください』。ラバンは土地の人たちを皆集め祝宴を開き、夜になると、娘のレアをヤコブのもとに連れて行ったので、ヤコブは彼女のところに入った』」。
・ヤコブはラケルのためにもう7年の無償労働奉仕が必要になった。欺く者が欺かれるという応報の出来事が起こった。
―創世記29:25-27「ところが、朝になってみると、それはレアであった。ヤコブがラバンに『どうしてこんなことをなさったのですか。私があなたのもとで働いたのは、ラケルのためではありませんか。なぜ、私をだましたのですか』と言うと、ラバンは答えた『我々の所では、妹を姉より先に嫁がせることはしないのだ。とにかく、この一週間の婚礼の祝いを済ませなさい。そうすれば、妹の方もお前に嫁がせよう。だがもう七年間、うちで働いてもらわねばならない』」。
・ヤコブはラケルを与えられ、彼女を愛し、さらに7年間、ラバンのために働いた。
-創世記29:30「こうして、ヤコブはラケルをめとった。ヤコブはレアよりもラケルを愛した。そして、更にもう七年ラバンのもとで働いた」。
3.ヤコブの子供たち
・古代世界にあっては、多くの子を得る為に、一夫多妻は認められた。しかし、このような制度により、妻たちは苦しんだ。レアの子に対する命名は「夫に愛されない妻」の悲哀に満ちている。しかし、レアの産んだ子レビの子孫からモーセが生まれ、ユダの子孫からダビデが生れる。神の業は人間の駆け引きや欲望を超えて実現されていく。
―創世記29:32-35「レアは身ごもって男の子を産み、ルベンと名付けた。それは、彼女が『主は私の苦しみを顧みて(ラア)くださった。これからは夫も私を愛してくれるにちがいない』と言ったからである。レアはまた身ごもって男の子を産み『主は私が疎んじられていることを耳にされ(シャマ)、またこの子をも授けてくださった』と言って、シメオンと名付けた。レアはまた身ごもって男の子を産み『これからはきっと、夫は私に結び付いて(ラベ)くれるだろう。夫のために三人も男の子を産んだのだから』と言った。そこで、その子をレビと名付けた。レアはまた身ごもって男の子を産み『今度こそ主をほめたたえ(ヤダ)よう』と言った。そこで、その子をユダと名付けた。しばらく、彼女は子を産まなくなった」。
・ヤコブは兄エソウと相続権を争った。今度はレアとラケルの姉妹が妻と母の座を争う。ラケルは子を産むことができなかった。
―創世記30:1-2「ラケルは、ヤコブとの間に子供ができないことが分かると、姉を妬むようになり、ヤコブに向かって『私にもぜひ子供を与えてください。与えてくださらなければ、私は死にます』と言った。ヤコブは激しく怒って、言った『私が神に代われると言うのか。お前の胎に子供を宿らせないのは神御自身なのだ』」。
・ここにあるのは「愛されない妻」と、「子の出来ない妻」の悲哀である。東日本大震災の避難民も、避難故の家庭崩壊を抱える人たちがいる。
-朝日新聞2016.02.23記事「中部地方のある都市で暮らす女性(36)は、以前は福島県田村市で暮らしていた。2011年3月の東京電力福島第一原発事故から1カ月後、1歳の息子と⒑歳の娘を連れ、縁のないこの町に避難してきた。福島の自宅は原発から西に35キロほど離れ、政府の避難指示はなかった。夫は『原発から離れているから大丈夫』と自宅に残ったが、女性は『国のデータは信用できない』と、放射能への不安から福島を離れた。2年前の秋、夫から届いた段ボールには子どもへのお菓子とともに、離婚届が入っていた。夫は『会えない家族に仕送りはできない』と言った。女性は『子どもの健康は守れたと思う。でも家族は壊した』。離婚したことは、子どもに伝えられずにいる」。
・子ができないことで苦しめられている妻たちも多い。不妊治療を経験した夫は語る。
-朝日新聞2015年10月23日「ちょうど40歳を過ぎたころから、学生時代の友人なんかと飲みに行くと、必ず『不妊治療』の話になった。みんな似たような状態で、妻の必死な姿を日々目の当たりにしているから、安易に『止めよう』とは言えないと話していた。僕たちにも、授かれるものなら授かりたいという気持ちもある。人工授精も、体外受精もやりましたが、何度も妻は流産した。それでも、彼女が諦めの境地に達するまでは、僕からは『終わりにしよう』とは言えなかった。彼女が自分を責め、あらゆる努力をしていたのを間近で見ていたからです。その頃は、家に帰るのが辛かった」。