江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2003年2月23日説教(ルカ5:12‐26、いやされて生きる)

投稿日:2003年2月23日 更新日:

1.らい病人のいやし

・イエスが町におられた時、イエスのところに全身をらい病に罹った人が来た。らい病(ハンセン氏病)は体の関節等が壊死していく病気であり、当時は不治の病と考えられていた。その病状から、また伝染することから、らい病は恐れられ、人々はそれを神の刑罰によるものと考え、らい病にかかった者を宗教的に「汚れた者」と呼んだ。彼らは町の中に入ることを許されず、道を歩く時には「私は汚れているから近寄らないで下さい」と言わなければならなかった(レビ記13:45-46)。汚れた者は排除するということは、2000年前の医学的に無知な人々だけの話ではない。日本でも数年前まではらい予防法があり、らい病患者は療養所に収容され、隔離されていた。
・従って、このらい病を患っている人が町に来てイエスに救いを求めたのは、律法に反することであり、石で打ち殺されても仕方のないことだった。彼の行為は命の危険を犯す無謀な行為だった。それでも彼はイエスならば憐れんでくれるかもしれないと思い、必死でイエスのところに行き、言った「御心でしたら清めていただけるのですが」(ルカ5:12)。社会はらい病を汚れた病として忌み嫌ったから、彼自身も自分を汚れていると思っている。「自分は罪人で清めていただく価値は無いかもしれませんが、それでもどうか憐れんで下さい」とこの人は願った。イエスは、彼の必死の訴えの中に、これまでの悲しみと苦しみを見られ、命の危険を冒してまで自分を求めてきたその行為に感動された。マルコ福音書では「イエスは深く憐れまれた」(マルコ1:41)とある、はらわたがねじれるように憐れまれたとの意味である。同時にまた、らい病に罹ったというだけで、人を社会から排除し疎外する律法主義に対する怒りも感じておられたであろう。イエスは手を伸ばして彼に触られた。らい病者に触れることは感染する危険を犯すことであり、また「汚れた者に触れるな」という律法を破る行為でもあった。しかし、イエスはあえてその禁を破られ、言われた「そうしてあげよう、清くなれ」(ルカ5:13)。こうして、このらい病者はいやされた。
・イエスはいやされた人に「この事を誰にも話してはいけない」と厳しく戒められた。イエスはこのらい病者を憐れまれ、いやされたが、このいやしは信仰の出来事だった。死の危険を顧みず必死に求めた、らい病者の願いに答えた行為であった。それは神の憐れみを与える信仰の行為であり、病をいやすことが目的ではなかった。しかし、人々がイエスに求めたのは信仰ではなく、いやしであった。「もっといやせ、何故もっといやさないのか」、多くの人がいやし人イエスの前に列をつくった。イエスは人々に「神はあなた方を愛されており、あなた方が神の元に戻ることを待っておられる」ことを伝えるために来られた。その神の愛の一つの現れとして病のいやしがある。しかし、人々には神の愛よりも直接のご利益、いやしを求めた。そのような人々を避けるために、イエスはこの人に「この事を誰にも話すな」と命じられ、人々がイエスのいやしを求めて集まった時も、群衆を避けて離れたところに退いて祈られた(ルカ5:16)。

2.中風の人のいやし
・イエスのいやしの評判を聞いて、大勢の人々が集まって来た。エルサレムからは律法学者たちがイエスを監視するために来た。そこに、四人の男たちが中風を患っている人を床に乗せて運んできた。中風、パラレリオー(片方が緩むという意味のギリシャ語)という言葉が使ってあり、脳卒中の後遺症で半身麻痺の人の事を指すのであろう。人々はイエスの評判を聞き、この人ならば中風で苦しむ友をいやすことが出来ると思い、遠くから連れて来た。ところが群衆のために病人をイエスの前に連れて行くことが出来なかった、しかし、彼らはあきらめないで、思い切った行動を取った。イエスがおられた家の屋根に登り、かわらをはいで、病人をそこから床のままでつり降ろしたのだ。当時の家屋は平屋で、外に階段がついており、屋上に登ることは出来た。また、屋根は木の枝で作られた梁の上に、葦や棕櫚の葉を置き、そこに粘土で作ったかわらを置いたものであったから、数人の男たちが行動すれば屋根のかわらをはぐことはそう難しくない。それにしても人の家の屋根に登り、かわらをはいで、その穴から病人をつり降ろすという行為は常識はずれのものだった。あたりには、粉塵が立ちこめたかも知れない。イエスは恥も外聞もなく、必死で自分を求めてきた人々の信仰に感動された。
・らい病の場合もそうであるが、当時、病気は罪の結果として理解されていた。だから病気をいやすことは罪を赦すことであり、イエスは中風の人に「あなたの罪は赦された」(ルカ5:20)と言われた。同席していた律法学者たちはイエスの言葉を聞いて「神を汚すことを言うこの人は、いったい、何者だ。神お一人の他に、だれが罪をゆるすことができるか」と言って論じはじめた(ルカ5:21)。律法学者たちにとって、中風の人の病がいやされたことよりも、イエスが「あなたの罪は赦された」と言われたことの方が重大であった。イエスはそのような律法学者を見て言われた「あなたの罪は赦されたと言うのと、起きて歩けと言うのと、どちらがたやすいか」。ここでイエスは「何故あなた方律法学者は、この病の人がいやされたことを共に喜ぶことが出来ないのか、何故神が示されたこの憐れみを共に讃美できないのか」と問われている。そして中風の人に言われた「あなたに命じる。起きよ、床を取り上げて家に帰れ」(ルカ5:24)。
・この二つの病のいやしに共通するものは必死の求めだ。らい病人は殺されるかもしれない危険を冒して町に入り、イエスの前にひれ伏した。中風の人を運んできた男たちは、人の家の屋根をはぐと言う非常識なことまでしてイエスを追い求めた。両者ともまた次の機会にしようとは言わなかった。今しかない、この時を逃したらもうイエスに会えないかも知れないという切迫感の中でイエスを求めている。そして、イエスは求める者には応えて下さる。私たちがイエスに出会うのは、往々にして、私たちが苦しみの中にある時だ。苦しいから必死に求める、必死に求めるから応えて下さる。その意味で、苦しみや悲しみが私たちを祝福に導くのだ。


3.いやされて生きる

・らい病の人は、病気に罹ったという理由で、汚れていると社会から排除され、誰かとすれ違う時には「自分は汚れているから離れてくれ」と叫ばねばならなかった。彼は人々の蔑みの中で、自分は何故生まれてきたのだろう、死んだ方がましではないか何回も思っただろう。その男にイエスは手を差し伸べられた。そして彼はいやされた。
・今日でも、このような苦しみを感じる人は多いし、それに対しいやしの手が差し伸べられている。私たちの隣人教会、市川八幡教会の会員に成田錦治さんと言う方がいる。この方は元、路上生活者であった人だ。この人が次のような証をされている(日本バプテスト連盟ホームレス支援委員会ニュースレターNO.2から)。
「三日間水だけで生きたことがある。その後古本が売れるという話を聞いたので、あてもなく歩いていたら、道路の横に4冊の漫画本があり、拾って売りにいったら600円になった。そのお金で食パンを買い、一つをポケットに入れ、食べながら歩いた。世の中にこんな美味しい食べ物があったのかと思うほど美味しかった。その時、頬を伝わって涙が流れ、止めることが出来なかった。・・・路上生活者にとって生きることは本当に辛いことだった」。
成田さんはある時、生きていてもしようがないと思い、死ぬために江戸川縁に行ったことがあると言う。その時「川はあまりにも汚く、死んでまでもこのような汚い所では・・・」と思い返し、死ねなかったと手記に書いている。その後、彼は市川八幡教会が中心になって組織している「市川ガンバの会」に支援を求め、現在は働きながら生計を立てておられるという。現在、市川八幡教会には元路上生活者の人が成田さんを含め5人集っているという。イエスによって始められたいやしの業が今日でも続いている。
・今日の招詞にマタイ18:14を選んだ。
「そのように、これらの小さい者のひとりが滅びることは、天にいますあなたがたの父のみこころではない」。多くの人がイエスの感動を生きようとした。キング牧師はアメリカ南部で黒人が人間以下に扱われ、社会から排除されているのは父なる神の御心ではないとして、差別撤廃のための公民権運動に従事し、その運動を通して多くの人がキリストに出会っていった。マザー・テレサは、カルカッタの路上で動物のように死んでいく人たちを見て、イエスがらい病者を見て感じられたように「はらわたがねじれるような痛み」を感じ、「死者の家」を作って、人々をそこで看取った。そのマザーの行為を見て、人はそこにキリストの姿を見出し、教会に導かれていった。キングやマザー・テレサ、あるいは市川八幡教会の行動の原点はイエスのいやしにある。イエスのいやしは単に肉体的な病のいやしではなく、魂のいやしだ。病気はいやされてもやがて人は死に、そのいやしは終る。しかし、魂のいやしは人の死を超えて生きる。教会はこの魂をいやされるイエスの業を伝えていく。私たちの周りにもいやしを求める多くの人がいる。その人たちにどうやってイエスのいやしの業を伝えていくのか。今日、私たちは教会総会を開き、来年度の活動方針を決める。その時、イエスのなされた、あるいは語られたことを、どのように私たちが具体化して行くのかの話し合いがなされればと願う。

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