１．ヨハネの宣教
・ルカはローマ人に対してこの福音書を書いている。そのため、ルカは、世界に救いをもたらす福音がユダヤの地で始まったことを、世界史の中に位置づけて記述する。ティベリウス帝の15年とは紀元27年ごろを指す。
−ルカ3:1-2「皇帝ティベリウスの治世の第十五年、ポンティオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟フィリポがイトラヤとトラコン地方の領主、リサニアがアビレネの領主、アンナスとカイアファとが大祭司であったとき、神の言葉が荒れ野でザカリアの子ヨハネに降った」。
・ルカは最初にバプテスマのヨハネの宣教を描く。メシヤ到来の準備をするためにエリヤが現れるとの旧約聖書の預言（マラキ3：1、イザヤ40：3-5）がバプテスマのヨハネによって成就したと彼は述べる。
−ルカ3:3-6「ヨハネはヨルダン川沿いの地方一帯に行って、罪の赦しを得させるために悔い改めの洗礼を宣べ伝えた。これは、預言者イザヤの書に書いてあるとおりである『荒れ野で叫ぶ者の声がする。主の道を整え、その道筋をまっすぐにせよ。谷はすべて埋められ、山と丘はみな低くされる。曲がった道はまっすぐに、でこぼこの道は平らになり、人は皆、神の救いを仰ぎ見る』」。
・ヨハネはエルサレムではなく、ユダの荒野に現れた。エルサレム神殿による救いは捨てられ、新しい救いが始まったとのルカは記述する。故にヨハネは、既に割礼を受けているユダヤ人にも洗礼を受けるように呼びかけた。
−ルカ3:7-9「ヨハネは、洗礼を授けてもらおうとして出て来た群衆に言った『蝮の子らよ、差し迫った神の怒りを免れると、だれが教えたのか。悔い改めにふさわしい実を結べ。我々の父はアブラハムだなどという考えを起こすな。言っておくが、神はこんな石ころからでも、アブラハムの子たちを造り出すことがおできになる。斧は既に木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる』」。
・ユダヤ人は神の選民であり、洗礼を受ける必要はないと考えたユダヤ教指導者はヨハネの勧めを拒否した（ルカ7：29-30）。ヨハネは洗礼を受けた人々にその生き方を変えるよう求めた。
−ルカ3:11-14「ヨハネは『下着を二枚持っている者は、一枚も持たない者に分けてやれ。食べ物を持っている者も同じようにせよ』と答えた。徴税人も洗礼を受けるために来て『先生、私たちはどうすればよいのですか』と言った。ヨハネは『規定以上のものは取り立てるな』と言った。兵士も『この私たちはどうすればよいのですか』と尋ねた。ヨハネは『だれからも金をゆすり取ったりだまし取ったりするな。自分の給料で満足せよ』と言った」。
２．イエスのバプテスマ
・しかし、ヨハネは、同時に、自分はメシアではないと明言した。メシアを準備するために来たと。
−ルカ3:15-17「民衆はメシアを待ち望んでいて、ヨハネについて、もしかしたら彼がメシアではないかと、皆心の中で考えていた。そこで、ヨハネは皆に向かって言った『私はあなたたちに水で洗礼を授けるが、私よりも優れた方が来られる。私は、その方の履物のひもを解く値打ちもない。その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる。そして、手に箕を持って、脱穀場を隅々まできれいにし、麦を集めて倉に入れ、殻を消えることのない火で焼き払われる』」
・水の洗礼は罪を洗い清めるが、聖霊と火は人を新生させる。それはメシアの仕事である。そのメシアこそ、イエスであることをルカは、イエスのバプテスマの時に、天から声があったことで指し示す。
−ルカ3:21-22「イエスも洗礼を受けて祈っておられると、天が開け、聖霊が鳩のように目に見える姿でイエスの上に降って来た。すると『あなたは私の愛する子、私の心に適う者』という声が、天から聞こえた」。
・「あなたは私の愛する子」とは、詩篇の預言するメシアへの呼びかけである（詩篇2：7-9）。そこには鉄の杖で地上を支配する王としてのメシアが預言されている。「私の心に適う者」とはイザヤの預言するメシアである。そこには「傷ついた葦を折らず、暗くなる灯心を消さない」柔和なメシアが預言されている（イザヤ42：1-3）。
・ルカはイエスの系図を記す。父ヨセフから始まり、ダビデ・アブラハムを経て、アダムまで遡る系図である。なお、マタイの系図とは構成人物が異なる。何故、異なるのかはわかっていない。
−ルカ3:23-38「イエスが宣教を始められたときはおよそ三十歳であった。イエスはヨセフの子と思われていた。ヨセフはエリの子、それからさかのぼると、・・・ダビデ、エッサイ、オベド、ボアズ・・・ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ・・・セム、ノア、レメク・・・エノシュ、セト、アダム。そして神に至る」。
・ルカはイエスを新しいアダムとする。古いアダムによって罪が始まり、新しいアダムによって救済が始まった。
−?コリント15:21-22「死が一人の人によって来たのだから、死者の復活も一人の人によって来るのです。アダムによって全ての人が死ぬことになったように、キリストによって全ての人が生かされることになるのです」。