江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2023年7月20日祈祷会(箴言10章、正しい人は報われるのか)

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1.正しき人と悪しき人の対比

 

・箴言は10章から本論に入り、22章まで二行からなる警句があふれている。それは道徳に関する断言であり、多くは対立的に並べられ、一見した所、統一性がないように思える。しかし、仔細に見ればそこには編集の業が見える。10章の中心主題は「神に従う者は祝福され、神に逆らう者は呪われる」であろう。「神に従う人」、「神に逆らう者」という言葉で10章を検索すると、多くの箇所がそこに現れる。

-箴言10:6-7「神に従う人は頭に祝福を受ける。神に逆らう者は口に不法を隠す。神に従う人の名は祝福され、神に逆らう者の名は朽ちる」。

-箴言10:11「神に従う人の口は命の源、神に逆らう者の口は不法を隠す」。

-箴言10:16「神に従う人の収入は生活を支えるため、神に逆らう者の稼ぎは罪のため」。

-箴言10:20-21「神に従う人の舌は精選された銀。神に逆らう者の心は無に等しい。神に従う人の唇は多くの人を養う。無知な者は意志が弱くて死ぬ」。

-箴言10:24-25「神に逆らう者は危惧する事に襲われる。神に従う人の願いはかなえられる。神に逆らう者はつむじ風の過ぎるように消える。神に従う人はとこしえの礎」。

-箴言10:28「神に従う人は待ち望んで喜びを得る。神に逆らう者は期待しても裏切られる」。

-箴言10:30-33「神に従う人はとこしえに揺らぐことなく、神に逆らう者は地に住まいを得ない。神に従う人の口は知恵を生み、暴言をはく舌は断たれる。神に従う人の唇は好意に親しみ、神に逆らう者の口は暴言に親しむ」。

・イスラエルの賢者たちは、自分たちが住んでいる世界は、「知恵のある正しい行いが報われ、愚かで悪い行いが罰せられる」という点で、秩序ある世界だとの強い信念を持っていた。神が支配されている故に、行為と結果は因果で結ばれているという因果応報が彼らの信仰だった。

-箴言1:32-33「浅はかな者は座して死に至り、愚か者は無為の内に滅びる。私に聞き従う人は確かな住まいを得、災難を恐れることなく平穏に暮らす」。

・賢者たちは「この世は正しい者が生きるには良い世界であり、悪しき者にとっては悪い世界である」と信じていた。しかし現実の世界はそうではない。現実は罪なき者たちが無意味に苦しみ、悪しき者たちが安楽に年を重ねる。因果律だけでは納得出来ない現実がある。イエスも因果応報の論理を否定される。

-ルカ13:1-5「ちょうどその時、何人かの人が来て、ピラトがガリラヤ人の血を彼らのいけにえに混ぜたことをイエスに告げた。イエスはお答えになった『そのガリラヤ人たちがそのような災難に遭ったのは、ほかのどのガリラヤ人よりも罪深い者だったからだと思うのか。決してそうではない。言っておくが、あなたがたも悔い改めなければ、皆同じように滅びる。また、シロアムの塔が倒れて死んだあの十八人は、エルサレムに住んでいたほかのどの人々よりも、罪深い者だったと思うのか。決してそうではない。言っておくが、あなたがたも悔い改めなければ、皆同じように滅びる』」。

・しかし箴言の賢者たちは語る「正しい者が災難を被っても絶望してはならない。彼らはもう一度立ち上がることができる。悪しき者が栄えても彼らを羨むべきではない。遅かれ早かれ、彼らの灯火は消える」。それもまた一面の真理であろう。神が支配されるとはそういうことなのだろう。

-箴言24:16-22「神に従う人は七度倒れても起き上がる。神に逆らう者は災難に遭えばつまずく・・・悪事を働く者に怒りを覚え、主に逆らう者のことに心を燃やすことはない。悪者には未来はない。主に逆らう者の灯は消える・・・突然、彼らの不幸は始まる。この両者が下す災難を誰が知りえよう」。

 

2.言葉の重要性

 

・10章におけるもう一つの主題は「言葉」である。人は言葉を持って相手と交わるが、その言葉がある時には他者を傷つけ、別の時には他者を慰める。言葉、唇、口という単語が10章には繰り返し出てくる

-箴言10:6「神に従う人は頭に祝福を受ける。神に逆らう者は口に不法を隠す」。

-箴言10:10-11「嘲りのまなざしは人を苦しめる。無知な唇は滅びに落とされる。神に従う人の口は命の源、神に逆らう者の口は不法を隠す」。

-箴言10:13-14「聡明な唇には知恵がある。意志の弱い者の背には杖。知恵ある人は知識を隠す。無知な者の口には破滅が近い」。

-箴言10:18-20「うそを言う唇は憎しみを隠している。愚か者は悪口を言う。口数が多ければ罪は避けえない。唇を制すれば成功する。神に従う人の舌は精選された銀。神に逆らう者の心は無に等しい」。

-箴言10:31-32「神に従う人の口は知恵を生み、暴言をはく舌は断たれる。神に従う人の唇は好意に親しみ、神に逆らう者の口は暴言に親しむ」。

・人はその舌を制御出来ないとヤコブは語る。私たちも日常生活においてそれが真実であることを知る。

-ヤコブ3:6-10「舌は火です。舌は『不義の世界』です。私たちの体の器官の一つで、全身を汚し、移り変わる人生を焼き尽くし、自らも地獄の火によって燃やされます・・・舌を制御できる人は一人もいません。舌は、疲れを知らない悪で、死をもたらす毒に満ちています。私たちは舌で、父である主を賛美し、また、舌で、神にかたどって造られた人間を呪います。同じ口から賛美と呪いが出て来るのです。私の兄弟たち、このようなことがあってはなりません」。

・言葉がなぜ人の心を傷つけるのか、それはその人の内心の思いが言葉として出るからだ。舌を制御出来ない人々に箴言は語る「憎しみはいさかいを引き起こす。愛は全ての罪を覆う」(箴言10:12)。舌を制御できない人間も愛によって変わりうる。これこそパウロが繰り返し語る真理だ。この愛はLoveではなく、Respectだ。相手を大切にする、相手を敬う、そこから真の人間関係が生まれる。

-第一コリント12:31-13:3「人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、私は騒がしいどら、やかましいシンバル。たとえ、預言する賜物を持ち、あらゆる神秘とあらゆる知識に通じていようとも、たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも、愛がなければ、無に等しい。全財産を貧しい人々のために使い尽くそうとも、誇ろうとしてわが身を死に引き渡そうとも、愛がなければ、私に何の益もない」。

 

3.箴言10章の黙想

 

・箴言のよって立つ基盤は「因果応報」だ。正しい者は祝され、悪しき者は罰せられる。しかし現実はそうではない。それを追求した書がヨブ記だ。ヨブは無実の自分に重い罰が与えられることを通して、人々が信じていた「因果応報の神(ヨブもまた信じていた)」に疑問を感じ始めている。因果応報では説明の出来ない不条理があることを、自己の苦難を通して見始めている。

-ヨブ記12:6「略奪者の天幕は栄え、神を怒らせる者、神さえ支配しようとする者は安泰だ」。

・今日でも多くの人々が因果応報の神を信じている。キリスト教会の中にも、「祈れば神の癒しはある。正しい者には物質的な祝福が与えられる」と教える教会は多い。こういう信仰に対して、ウィリモンは「それは聖書の信仰ではない」と言う(ウィリモン「教会を必要としない人への福音」)。

-「キリスト教が素晴らしい信仰であることを示す理由の一つは、苦痛がなくなるとか生活がすべて祝福される等の、安易な約束をしないからだ。人生は時には苦痛に満ちたものであり、物事は私たちが望む方向に進むとは限らない、という人生の現実に基づく希望を持つからだ」。

・ヨブの三人の友人たちは神ではなく、自分たちの信じる応報神学をもとに、人を裁いている。今日の教会にも同じ傾向がある。カルヴァンの唱える予定論(救われる者と滅ぶ者があらかじめ定められている)もまた、カルヴァンの信仰であって聖書全体の信仰ではない。聖書の信仰は「父は悪人にも善人にも太陽を昇らせ、正しい者にも正しくない者にも雨を降らせて下さる」(マタイ5:45b)というものだ。

・2011年3月11日に起こった東日本大震災において2万人近い方が亡くなり、被災した人々は、「神も仏もないのか」、「神は本当におられるのか」と叫んだ。キリスト者も問うた。「神が愛であるならば、神は何故このような地震や津波を起こし、何万人もの命を奪われたのか。愛の神が何故このような酷いことをされるのか」。旧約学者の並木浩一は「ヨブ記からの問いかけ」という短文の中で述べる。

-「東日本震災と神の摂理」から 「ヨブ記の中で神が言及する地球物理的な自然は・・・固有の法則を持っている。自然も自律的であり、人間の願望には従わない。気象がそれを象徴的に語る。雨は人の住まない荒野にも降るのである(ヨブ38:26)。(中略)今回の東日本を襲った大地震と津波の発生は北米大陸プレートが過去に相当の回数行って来た自然界のリズムによる。このリズムに十分な配慮を払った生活形態を築かなければ、人々は再び悲惨な状況に追い込まれるだろう。ヨブ記は今日、人間に固有な責任の確認と外部世界の独自性の承認とをわれわれに問うている」。

・パウロは使徒24:14-16で語る「私は・・・正しい者も正しくない者もやがて復活するという希望を、神に対して抱いています」。人の目には義人と罪人は分かれるだろう。しかし神の目から見れば「正しい者はいない、一人もいない」(ローマ3:10)。因果応報は破たんしており、人を救わない。そうであれば正義がこの世で実現することを待望するのではなく、最終の裁きは神がなされることを信じていくべきであろう。

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