1.シリア・イスラエル連合軍の攻撃に揺れるユダ王国
・北のイスラエル王国では次々に王が代わり、亡国の兆しが強まっていた時、ユダ王国ではアハズ王の時代に、反アッシリアのシリア・イスラエル同盟軍がユダを攻め、国内は混乱した。
-列王記下16:5-6「アラムの王レツィンとイスラエルの王レマルヤの子ペカがエルサレムを攻めようとして上って来た。彼らはアハズを包囲したが、戦いを仕掛けることができなかった。このとき、アラムの王レツィンはエイラトを取り戻してアラムのものとし、ユダの人々をエイラトから追い出した」。
・その時、現れた預言者がイザヤである。イザヤ7章にはユダ王国の混乱の様子が記されている。
-イザヤ7:1-2「ユダの王ウジヤの孫であり、ヨタムの子であるアハズの治世のことである。アラムの王レツィンとレマルヤの子イスラエルの王ペカが、エルサレムを攻めるため上って来た・・・アラムがエフライムと同盟したという知らせは、ダビデの家に伝えられ、王の心も民の心も、森の木々が風に揺れ動くように動揺した」。
・イザヤは「ユダ王国を守ってこられたのは主だ。外国の軍隊ではなく主に頼れ」とアハズに迫った。
-イザヤ7:3-9「主はイザヤに言われた『あなたは・・・アハズに会い、彼に言いなさい。落ち着いて、静かにしていなさい。恐れることはない。アラムを率いるレツィンとレマルヤの子が激しても、この二つの燃え残ってくすぶる切り株のゆえに心を弱くしてはならない。アラムがエフライムとレマルヤの子を語らって、あなたに対して災いを謀り『ユダに攻め上って脅かし、我々に従わせ、タベアルの子をそこに王として即位させよう』と言っているが・・・それは実現せず、成就しない。・・・信じなければ、あなたがたは確かにされない』」。
2.主に頼らず、アッシリアに頼るユダ王国の選択
・しかしアハズ王はイザヤの勧告を拒否し、アッシリアに援軍を求める。
-列王記下16:7-8「アハズはアッシリアの王ティグラト・ピレセルに使者を遣わして言わせた『私はあなたの僕、あなたの子です。どうか上って来て、私に立ち向かうアラムの王とイスラエルの王の手から、私を救い出して下さい』。アハズはまた主の神殿と王宮の宝物庫にある銀と金を取り出し、アッシリアの王に贈り物として送った」。
・アッシリアは要請を好機にシリアの首都ダマスコを攻め、占領した。やがてアッシリアはイスラエル王国をも攻め、さらにはユダ王国をも狙うようになる。アハズは狼から逃れるために獅子に援助を頼んだ。
-列王記下16:9「アッシリアの王はその願いを聞き入れた。アッシリアの王はダマスコに攻め上ってこれを占領し、その住民を捕虜としてキルに移し、レツィンを殺した」。
・アハズはアッシリアの介入によりシリア・エフライム連合軍から救われると、ダマスコに赴き、アッシリア王に拝謁した。そしてアッシリアの祭壇をエルサレム神殿に導入するよう祭司たちに命じた。
-列王記下16:10-11「アハズ王は、アッシリアの王ティグラト・ピレセルに会おうとしてダマスコに行き、ダマスコにある祭壇を見た。アハズ王が祭司ウリヤにその祭壇の見取り図とその詳しい作り方の説明書を送ったので、祭司ウリヤはアハズ王がダマスコから送って来たものそっくりに祭壇を築いた」。
・アハズにとって強い者が神であった。アラム軍が勝つとアラムの神を拝み、アッシリア軍が勝つとアッシリアの神を拝んだ。彼は地上の神に頼り、天の神を仰ごうとはしなかった。
-歴代誌下28:22-25「彼は自分を打ったダマスコの神々に生贄をささげ『アラムの王の神々は、王を助けている。その神々に、私も生贄をささげよう。そうすれば私も助けてくれるだろう』と言った。その神々はアハズにとっても、すべてのイスラエルにとっても、破滅をもたらすものでしかなかった。アハズは神殿の祭具を集めて粉々に砕き、主の神殿の扉を閉じる一方、エルサレムのあらゆる街角に祭壇を築いた」。
3.イスラエル王国の滅亡
・イスラエルはシリアと連合してユダを攻めたが、ユダ王アハズはアッシリアの支援を求め、アッシリアは北王国を攻め、攻防の中で北王国ペカ王は殺され、ホシェアがアッシリアの支持を得て王となった。隣国エジプトはアッシリアに対抗するためにパレスチナ諸国と同盟を結んだ。イスラエル王ホシェアは当初はアッシリアに服従したが、やがてアッシリアに反乱を起こし、アッシリア軍がイスラエルを攻めてきた。
-列王記下17:3-4「アッシリアの王シャルマナサルが攻め上って来た時、ホシェアは彼に服従して、貢ぎ物を納めた。しかし、アッシリアの王は、ホシェアが謀反を企てて、エジプトの王ソに使節を派遣し、アッシリアの王に年ごとの貢ぎ物を納めなくなったのを知るに至り、彼を捕らえて牢につないだ」。
・預言者ホセアはイスラエルを「エジプトとアッシリアの間を動き回る愚かな鳩」と揶揄する。
-ホセア7:11「エフライムは鳩のようだ。愚かで、悟りがない。エジプトに助けを求め、あるいは、アッシリアに頼って行く」。
・アッシリアは三年間の攻防の後にサマリアを滅ぼし、その住民を捕虜として自国に連れ去った。
-列王記下17:5-6「アッシリアの王はこの国のすべての地に攻め上って来た。彼はサマリアに攻め上って来て、三年間これを包囲し、ホシェアの治世第九年にサマリアを占領した。彼はイスラエル人を捕らえてアッシリアに連れて行き、ヘラ、ハボル、ゴザン川、メディアの町々に住ませた」。
・前721年にイスラエル王国は滅んだ。イスラエル滅亡の原因は世界史的には、エジプトとアッシリアの大国にはさまれた小国の外交政策の失敗であった。しかし列王記記者はそこに神の裁きを見ている。
-列王記下17:7-8「こうなったのは、イスラエルの人々が彼らをエジプトの地から導き上り、エジプトの王の支配から解放した彼らの神、主に対して罪を犯し、他の神々を畏れ敬い、主がイスラエルの人々の前から追い払われた諸国の民の風習と、イスラエルの王たちが作った風習に従って歩んだからである」。
4.イスラエルは何故滅んだのか
・シリア・エフライム戦争とその後の歴史を振り返る。
-アッシリア帝国のティグラテピレセル三世は、世界帝国の形成を画策し、シリア・パレスチナに次第に勢力を伸ばしていた。この危機に対してシリアとイスラエル(エフライム)は、連合して抵抗しようとし、この連合にユダも引き入れようとした(前733年)。しかしユダ王アハズは、これを拒絶したために、連合軍がエルサレムに攻めて来た(シリア・エフライム戦争)。
-預言者イザヤはその時の様子を、「王の心と民の心とは風に動かされる林の木のように動揺した」と記している。アハズ王は、「静かにして恐れるな」というイザヤの勧告に従わずに、アッシリアに援助を求め、ティグラテピレセルにエルサレム神殿と宮殿の財宝を贈った。アッシリアはただちに援軍を出してユダを救った。しかしこのことは、ユダ王国がアッシリアの属国にされたことを意味する。
-アハズは、自国の危機を救ってくれたティグラテピレセルに挨拶するためにダマスコに行った時、そこにあったアッシリアの神の祭壇の詳しい図面とひな型とを作って、エルサレムの大祭司ウリヤに送って、神殿の中にその祭壇を建てさせた。イザヤはこのような結果になることを予測してアッシリアに援助を求めないようにと、アハズに忠告していた。
・列王記の中には「主の目に悪とされることを行った」と言う表現が31回も出てくる。神の民として選ばれながら従わなかった歴史をイスラエルは繰り返して来た。だから裁かれたのだと列王記記者は訴える。
-列王記下17:16-18「彼らは自分たちの神、主の戒めをことごとく捨て、鋳像、二頭の子牛像を造り、アシェラ像を造り、天の万象にひれ伏し、バアルに仕えた。息子や娘に火の中を通らせ、占いやまじないを行い、自らを売り渡して主の目に悪とされることを行い、主の怒りを招いた。主はイスラエルに対して激しく憤り、彼らを御前から退け、ただユダの部族しか残されなかった」。
・アッシリアは支配地の住民を連れ去れ、別の地から移住させた。アッシリアに連れ去れた住民は同化し民族性をなくし、残った住民は移住の異民族と混血し、新しい民族サマリア人が生まれてくる。
-列王記下17:24-33「アッシリアの王はバビロン、クト、アワ、ハマト、セファルワイムの人々を連れて来て、イスラエルの人々に代えてサマリアの住民とした・・・彼らは主を畏れ敬ったが、自分たちの中から聖なる高台の祭司たちを立て、その祭司たちが聖なる高台の家で彼らのために勤めを果たした。このように彼らは主を畏れ敬うとともに、移される前にいた国々の風習に従って自分たちの神々にも仕えた」。
・イエスの時代、ユダヤ人はサマリア人とは交際しなかった。純血でないサマリア人に軽蔑のまなざしを持っていたからだ。しかしイエスはサマリア人を差別されなかった。ヨハネ4章「サマリアの女の話」、ルカ10章「良きサマリア人のたとえ」もこの歴史を理解しないと真意は伝わらない。
-ヨハネ4:21-23 「イエスは言われた。『婦人よ、私を信じなさい。あなたがたが、この山でもエルサレムでもない所で、父を礼拝する時が来る。あなたがたは知らないものを礼拝しているが、私たちは知っているものを礼拝している・・・しかし、まことの礼拝をする者たちが、霊と真理をもって父を礼拝する時が来る。今がその時である。なぜなら、父はこのように礼拝する者を求めておられるからだ。」。