江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2016年6月9日祈祷会(創世記44章、兄弟たちの悔改め)

投稿日:2019年8月21日 更新日:

1.兄弟たちの悔改め

・兄弟たちを歓待した後、ヨセフはベニヤミンの袋に密かに銀の杯を入れ、ベニヤミンを捕えて残そうとした。兄弟たちがヨセフを捨てたようにベニヤミンも捨てるかどうか試すためである。
—創世記44:1-2「ヨセフは執事に命じた。『あの人たちの袋を、運べるかぎり多くの食糧でいっぱいにし、めいめいの銀をそれぞれの袋の口のところへ入れておけ。それから、私の杯、あの銀の杯を、いちばん年下の者の袋の口に、穀物の代金の銀と一緒に入れておきなさい。』執事はヨセフが命じたとおりにした」。
・兄弟たちがカナンに帰り始めた時、ヨセフは執事たちに、彼らに追いついて盗んだ銀の杯を返すように命じた。銀の杯は占いに用いる、祭儀用の品を盗むことは重罪で死罪に当たる。兄弟たちもそれを知っており、もし見つかれば死罪になっても良いと答える。
—創世記44:7-9「すると、彼らは言った。『御主人様、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか。僕どもがそんなことをするなどとは、とんでもないことです。袋の口で見つけた銀でさえ、私どもはカナンの地から持ち帰って、御主人様にお返ししたではありませんか。その私どもがどうして、あなたの御主君のお屋敷から銀や金を盗んだりするでしょうか。僕どもの中のだれからでも杯が見つかれば、その者は死罪に、ほかの私どもも皆、御主人様の奴隷になります。」
・銀の杯はベニヤミンの袋から見つかった。兄弟たちはそれが冤罪であると知っていたが、受け入れる。自分たちがかつて弟ヨセフを奴隷として売り払った、その罪の記憶が兄弟たちを追いつめている。
—創世記44:11-13「彼らは急いで自分の袋を地面に降ろし、めいめいで袋を開けた。執事が年上の者から念入りに調べ始め、いちばん最後に年下の者になったとき、ベニヤミンの袋の中から杯が見つかった。彼らは衣を引き裂き、めいめい自分のろばに荷を積むと、町へ引き返した」。
・ヨセフは彼らの忘恩の行為を叱るが、ユダは抗弁することなく、冤罪を神の下された罰として受け入れる。彼は言う「神が僕どもの罪を暴かれたのです」。彼は神の前における深い罪の自覚へと導かれていた。
—創世記44:14-16「ユダと兄弟たちがヨセフの屋敷に入って行くと、ヨセフはまだそこにいた。一同は彼の前で地にひれ伏した。『お前たちのしたこの仕業は何事か。私のような者は占い当てることを知らないのか』とヨセフが言うと、ユダが答えた。『御主君に何と申し開きできましょう。今更どう言えば、私どもの身の証しを立てることができましょう。神が僕どもの罪を暴かれたのです。この上は、私どもも杯が見つかった者と共に、御主君の奴隷になります。』」
・森有正は、「人間は心の奥底に秘めた最も痛いところで神と出会う」と語る。ユダもかつて兄弟ヨセフを捨てたという心の痛みの中で神と出会っている。
—森有正・土の器に「人間という者は、どうしても人に知らせることのできない、心の一隅を持っている。醜い考えがあるし、秘密の考えがある。またひそかな欲望があるし、恥があるし、どうも他人に知らせることのできないある心の一隅があり・・・人にも言えず親にも言えず、先生にも言えず、また恥じている、そこでしか人間は神に会うことはできない」。

2.ユダの嘆願

・ヨセフは杯を盗んだベニヤミンだけを残して帰ってもよいと兄弟たちに告げる。前に弟ヨセフを妬んで売ったように、今回も弟ベニヤミンを犠牲にして兄弟たちが身の安全を図ろうとするかの試みであった。
―創世記44:17「ヨセフは言った。『そんなことは全く考えていない。ただ、杯を見つけられた者だけが、私の奴隷になればよい。ほかのお前たちは皆、安心して父親のもとへ帰るがよい。』」
・それに対して兄弟のユダは弟を残して帰れば父ヤコブは悲しみのあまり死ぬ、それは出来ないと抗弁する。かつてユダはヨセフが父の寵愛を受けることを妬んで、「さあ、我々は彼をイシマエル人に売ろう」と提案している(37:27)。その彼が今はベニヤミンのため、自分を奴隷にしてくれと語る。
―創世記44:18-31「ユダはヨセフの前に進み出て言った。『ああ、御主君様。何とぞお怒りにならず、僕の申し上げますことに耳を傾けてください・・・御主君は僕どもに向かって、父や兄弟がいるのかとお尋ねになりましたが、そのとき、御主君に、年とった父と、それに父の年寄り子である末の弟がおります。その兄は亡くなり、同じ母の子で残っているのはその子だけですから、父は彼をかわいがっておりますと申し上げました・・・今私が、この子を一緒に連れずに、あなたさまの僕である父のところへ帰れば、父の魂はこの子の魂と堅く結ばれていますから、この子がいないことを知って、父は死んでしまうでしょう。そして、僕どもは白髪の父を、悲嘆のうちに陰府に下らせることになるのです』」。
・かつてヨセフを奴隷として売ることを主唱したユダが、今は弟のために自己を犠牲にして助命を申し出る。ユダは今は父の悲しみを自分の悲しみとする者に変えられている。
―創世記44:32-34「『実は、この僕が父にこの子の安全を保障して、もしも、この子をあなたのもとに連れて帰らないようなことがあれば、私が父に対して生涯その罪を負い続けますと言ったのです。何とぞ、この子の代わりに、この僕を御主君の奴隷としてここに残し、この子はほかの兄弟たちと一緒に帰らせてください。この子を一緒に連れずに、どうして私は父のもとへ帰ることができましょう。父に襲いかかる苦悶を見るに忍びません。』」
・兄弟を悔改めに導くためには試練が必要であった。ヨセフはそのために兄弟たちを試した。しかし今ユダの切々たる告白を聞き、ヨセフは心動かされて、「自分が弟のヨセフである」ことを明らかにする。
―創世記45:1-2「ヨセフは、そばで仕えている者の前で、もはや平静を装っていることができなくなり、『みんな、ここから出て行ってくれ』と叫んだ。だれもそばにいなくなってから、ヨセフは兄弟たちに自分の身を明かした。ヨセフは、声をあげて泣いたので、エジプト人はそれを聞き、ファラオの宮廷にも伝わった」。
・ここにあるのはユダの再生物語だ。ドストエフスキー「罪と罰」に、もう一つ印象的な再生物語がある貧しい学生のラスコリニコフは、学費を工面するために金貸しの老婆を殺して金を奪うが、良心に責められ、盗んだお金を使うことも出来ない。その後、彼は娼婦ソーニャと出会い、彼女の部屋で、ヨハネ福音書「ラザロの復活」の箇所を読んでもらい、その言葉を聞いて彼は自分の罪を認め、勧められて自首し、流刑の判決を受ける。そこから彼の再生の物語が始まる。
・ドストエフスキーが手元に置いていた新約聖書は、現在モスクワ図書館に保存されており、ヨハネ福音書第11章19節-26節、「罪と罰」でラスコリニコフの願いによってソーニャが朗読する「ラザロの復活」の箇所には、始めと終わりがインクでマークされ、小説ではイタリック体で強調され、25節「私は復活であり、命である」には、鉛筆で下線がほどこされている。ドストエフスキーは神を信じることの出来なくなった私たち現代人のために、この小説を書いた。「神は生きておられる、神は死んだ者を生き返らせる力をお持ちだ」とドストエフスキーはこの作品を通して訴えているように思える。

3.悔改めと赦し

・ヨセフの人生は神の経綸に導かれた、生かされた生であった。私たちも人生を自己のために歩む道としてではなく、神の経綸の一部として歩ませていただく人生と見る時、世の出来事が変って来る。
―創世記45:3-8「ヨセフは、兄弟たちに言った。『私はヨセフです。お父さんはまだ生きておられますか。』兄弟たちはヨセフの前で驚きのあまり、答えることができなかった。ヨセフは兄弟たちに言った・・・『私はあなたたちがエジプトへ売った弟のヨセフです。しかし、今は、私をここへ売ったことを悔やんだり、責め合ったりする必要はありません。命を救うために、神が私をあなたたちより先にお遣わしになったのです・・・神が私をあなたたちより先にお遣わしになったのは、この国にあなたたちの残りの者を与え、あなたたちを生き永らえさせて、大いなる救いに至らせるためです。私をここへ遣わしたのは、あなたたちではなく、神です』」。
・ヨセフ物語において、神は人間の罪を用いてその聖なる目的を遂げられる。神はヨセフを兄たちの憎しみと嫉妬とを用いてエジプトに導き、そして神は人間の罪を用いてその人間を試され、清めさせられる。ユダの告白はそうである。ユダはかってヨセフを恨んでエジプトに売った張本人であった。そのユダが今弟ベニヤミンの助命のために自分の命を捨てようとする。導きは時が満ちて初めて導きであることがわかる。ある時は人生の長さを超える時が必要になる。途上であってもそれを信じる強さが必要だ。
-エレミヤ29:10-14「主はこう言われる。バビロンに七十年の時が満ちたなら、私はあなたたちを顧みる。私は恵みの約束を果たし、あなたたちをこの地に連れ戻す。私は、あなたたちのために立てた計画をよく心に留めている、と主は言われる。それは平和の計画であって、災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである。そのとき、あなたたちが私を呼び、来て私に祈り求めるなら、私は聞く・・・私は捕囚の民を帰らせる。私はあなたたちをあらゆる国々の間に、またあらゆる地域に追いやったが、そこから呼び集め、かつてそこから捕囚として追い出した元の場所へ連れ戻す、と主は言われる」。

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