・本章の冒頭は無償の愛を比喩で教え実践を促している。イエスはこの無償の愛を、人のなすべき最優先概念として教え、自らそのとおり実践した。その愛は代償を求めない無償の愛で、キリスト教はイエスの無償の愛に基づいている。日本語の愛は愛の概念を明確に表しにくいが、ギリシャ語は愛の概念を、アガペ−(無償の愛)エロス(性愛)フイリア(友愛)ストルゲ−(家族愛)に分け明確である。本章冒頭の比喩はアガぺ−である。
-コヘレト11:1「あなたのパンを水に浮かべて流すがよい。月日がたってから、それを見いだすだろう。」
・水にパンを浮かべ流したら、たちまち溶けて分解、再び原形を取り戻すことはできない。この比喩は、与えるだけで代償を求めない無償の愛(アガペ−)を教えている。代償を求める愛は、相応な報いがないと不満がおき、不満が溜まり次第に増幅し、憎しみ湧き心が揺れ、怒りとなり愛に報いぬ相手に向かって爆発する。多くの人々は今も愛と憎の狭間で悩み苦しんでいる。イエスは報いを求める不完全な愛を否定している。
・教団讃美歌536は、この聖句に感動して作られた。水に浮かべた「パン」を「種」に、「月日がたってから見出すだろう」を「何処の岸にか生いたつものを」と、読み代え愛の在り方を詩にしている。「(1)報いを望まで人に与えよ こは主のかしこきみ旨ならずや 水の上(え)に落ちて流れし種も 何処の岸にか生い立つものを。」(2)浅き心もて事を図らず み旨のまにまにひたすら励め 風に折られしと見えし若木の 思わぬ木陰に人もや宿さん。」
-マタイ6:3−4「施しをするときは、右手のすることを左の手に知らせてはならない。あなたの施しを人目につかせないためである。そうすれば、隠れたことを見ておられる父が、あなたに報いてくださる。」
・マタイは「施しをするときは右手のしたことを左手に知らせてはならない。」と教えた。合掌は右と左の手の平を合せ、拍手は右と左の手に平を打ち合わせる。それほど近い関係の右手のしたことを左手に知らすなというのが、施し(慈善)をなすものへの教訓である。
-コヘレト11:2「七人と、八人とすら、分かち合っておけ、国にどのような災いが起こるか、分かったものではない。」
・七人か、八人の組で、天災や戦争、飢饉に備えて、食糧などの備蓄をして、助け合えと教えている。未来どころか明日のことさえ、人には予知できないからである。
-コヘレト11:3−4「雨が雲に満ちれば、それは地に滴る。南風に倒されても北風に倒されても、木はその倒れたところに横たわる。風向きを気にすれば種はまけない。雲行きを気にすれば刈り入れはできない。」
・農事は常に気象に左右される。雲の水分が過剰になれば、雨となり地上に降り注ぐ。木はいったん倒れたら南でも北でもその場から動かない。木は暴風で倒れることもあれば、寿命が尽きても倒れる。木が倒れる時や場所、方向を人は予測できない。4節は風を警戒する者は種を蒔かない。雲行きを心配する者は刈り入れをしないと解釈したら、天候を見計らって農事をする知恵の教えとなる。しかし、ここでは天気ばかり気にして、ためらっていると時期を失うから、天候に惑わされず果断に行えという、決断を促す教えである。
-コヘレト11:5−6「妊婦は胎内で霊や骨組がどのようになるかも分からないのに、すべてのことを成し遂げられる神の業がわかるわけがない。朝、種を蒔け、夜にも手を休めるな。実を結ぶのはあれかこれか、それとも両方なのか。分からないのだから。」
・妊婦の例えも種まきの例えは、神の業は人の理解を越えた奥深さがあると教えている。
-コヘレト11:7−8「光は快く、太陽を見るのは楽しい。長生きし、喜びに満ちているときにも、暗い日々の多くあろうことを忘れないように。何が来ようとすべて空しい。」
・明るい太陽の光を浴びるのは人にとって快く楽しいことである。長寿の喜びもまた人にとって大いなる喜びである。しかし、人生は良い時ばかりではない。暗い逆境の日々が何時来るかも知れない。人生に明暗があることを忘れるなとコヘレトは警告している。
-コヘレト11:9−10「若者よ、お前の若さを喜ぶがよい。青年時代を楽しく過ごせ。心に適う道を、目に映るところに従って行け。知っておくがよい、神はすべてについて、お前を裁きの座に連れて行かれると。心から悩みを去り、肉体から苦しみを除け。若さも青春も空しい。」
・コヘレトは禁欲的でもなく、楽天的でもない。だから若者に青春を楽しみ喜べ、希望の路を思いのまま進めと励ましているかとおもえば、神の裁きは必ずあるから心して生きよ。若さも青春も時と共に空しく過ぎ去るのだから、心から悩みを除き、病を直しておけと警告する。コヘレトが一番言いたかったことそれは「神を畏れその戒めを守れ」なのである。
2013年5月29日祈祷会(コヘレトの言葉11:1−10 、無償の愛への勧め)
投稿日:2019年8月21日 更新日: