1. アモス書はどのような書か
・アモス書は9章で構成され、十二小預言書に分類される。伝統的に十二小預言書の中で3番目に位置し、ホセア書、ヨエル書の次に配置される(大預言書、小預言書の別は、内容ではなく、文書の長さによる)。著者アモスはユダ王国テコア出身の牧夫であった。預言時期についてはウジヤ(ユダ王国)、ヤラベアム2世(イスラエル王国)の時代である(1:1)。近隣諸国の民への審判(1:3‐2:3)、南王国ユダ・北王国イスラエルに対する神の裁きの宣告と悔い改めの要求(2:4-6:14)、裁きについての5つの幻(7:1-9:10)、ダビデの系統を引くイスラエル民族の回復(9:11-15)が歌われる。
・ソロモン死後(前922年)、イスラエル王国は南北に分裂し、北王国はヤロブアム2世時代(前786−746年)に全盛期を迎える。ただ軍事的・経済的には栄えたが、国内的には社会的不正義と道徳的腐敗がはびこり、アモスはイスラル王国の宗教的堕落を告発し、悔い改めねば滅びるとの審判預言を行った(イスラエル王国は前720年アッシリアにより滅ぼされる)。
-アモス1:1-2「テコアの牧者の一人であったアモスの言葉。それは、ユダの王ウジヤとイスラエルの王ヨアシュの子ヤロブアムの時代、あの地震の二年前に、イスラエルについて示されたものである。彼は言った。主はシオンからほえたけり、エルサレムから声をとどろかされる。羊飼いの牧草地は乾き、カルメルの頂は枯れる」。
・アモスは南王国テコア出身の羊飼いであった。彼は訓練を受けた預言者でもなく、また北王国出身者でもなかった。神はこのような預言者を用いて、北王国の悔い改めを求められた(主はシオンからほえたけり、エルサレムから声をとどろかされる)。アモスは北王国の祭壇があったベテルで預言した(3:4)。彼が最初に行ったのは近隣の国々の罪の告発である(1:3-2:3)。最初に裁かれたのはダマスコ(シリア)の罪である。
-アモス1:3-5「主はこう言われる。ダマスコの三つの罪、四つの罪のゆえに、私は決して赦さない。彼らが鉄の打穀板を用い、ギレアドを踏みにじったからだ。私はハザエルの宮殿に火を放つ。火はベン・ハダドの城郭をなめ尽くす。私はダマスコ城門のかんぬきを砕き、ビクアト・アベン(悪の谷)から支配者を、ベト・エデン(快楽の家)から、王笏を持つ者を断つ。アラムの民はキルの地に捕らえられて行くと主は言われる」。
・ダマスコはかつてイスラエルのギレアデに侵略し、鉄の打穀板(戦車)で国土を蹂躙し、多くの民を残酷な方法で殺した。その当時の有様が列王記に描かれる。ダマスコは前732年にアッシリアにより滅ぼされる。
-列王記下8:12「あなた(ハザエル)は砦に火を放ち、若者を剣にかけて殺し、幼子を打ちつけ、妊婦を切り裂く」。
-列王記下10:32-33「主はイスラエルを衰退に向かわせられた。ハザエルがイスラエルをその領土の至るところで侵略したのである。侵略はヨルダン川の東側にあるギレアドの全域、ガド、ルベン、マナセの地で行われ、アルノン川の近くにあるアロエルから、ギレアドとバシャンにまで及んだ」。
2.人道に対する罪の告発
・次にガザ(ペリシテ)とティルス(ツロ、フェニキア)の罪が裁かれる。彼らは戦争捕虜を奴隷として売買した。フェニキア人は奴隷商人として有名であった。父なる神は人道に対する罪により、彼らを裁かれる。
-アモス1:6-10「主はこう言われる。ガザの三つの罪、四つの罪のゆえに、私は決して赦さない。彼らがとりこにした者をすべてエドムに引き渡したからだ。私はガザの城壁に火を放つ。火はその城郭をなめ尽くす。私はアシュドドから支配者を、アシュケロンから王笏を持つ者を断つ。また、手を返してエクロンを撃つ。ペリシテの残りの者も滅びると主なる神は言われる。主はこう言われる。ティルスの三つの罪、四つの罪のゆえに、私は決して赦さない。彼らがとりこをすべてエドムに引き渡し、兄弟の契りを心に留めなかったからだ。私はティルスの城壁に火を放つ。火はその城郭をなめ尽くす」。
・ガザはペリシテを代表する都市国家であるが、前732年にアッシリアにより占領され、前720年には再度破壊された。その後も戦争が絶えず、現在はパレスチナ自治区に組み入れられ、イスラム過激派ハマスの支配下で隣国イスラエルと交戦状態の中にある。ガザに対する審判は今でも続いているのだろうか。
・フェニキア人は武装した小部隊で無防備な村々を襲撃し、住民を売買するために連れ去ったという(エゼキエル7:21)。奴隷貿易の歴史は人間の歴史と同じくらい古くからある。古代ギリシャにおいては、戦争捕虜が奴隷貿易で取り引きされ、捕虜となった奴隷は交易港に運ばれて戦利品とともに売られた。奴隷は「物言う道具」とされ、人格を認められず酷使された。しかし神はこのような事態を放置されない。ツロは前332年アレキサンダーの軍隊に滅ぼされ、住民3万人は奴隷として売られたという。
・その後も奴隷貿易は無くならず、イギリスが廃止したのは1807年であった(アメイジング・グレイスの作詞者として有名なジョン・ニュ−トンもかつては奴隷船の船長であり、改心後奴隷貿易廃止のために働いた)。アメリカが奴隷制を廃止したのは1865年南北戦争後であり、この戦争の中でバプテスト派も南北に分裂、私たちの母教会南部バプテストは奴隷制容認の教派だったし、その後も白人優位主義に立ち、黒人たちは連盟から分離した。現在では女性に対する男性優位主義に立ち、女性宣教師や女性牧師を認めていない。
-?テモテ2:12-15「婦人が教えたり、男の上に立ったりするのを、私は許しません。むしろ、静かにしているべきです。なぜならば、アダムが最初に造られ、それからエバが造られたからです。しかも、アダムはだまされませんでしたが、女はだまされて、罪を犯してしまいました。しかし婦人は、信仰と愛と清さを保ち続け、貞淑であるならば、子を産むことによって救われます」。
・次にエドムとアンモンの罪が告発される。両国はイスラエル南部に位置するが、イスラエルに行った残虐行為に対して裁かれている。エドムはヤコブの兄弟エソウの子孫たちであり、イスラエルの兄弟国であった。
-アモス1:11-15「主はこう言われる。エドムの三つの罪、四つの罪のゆえに、私は決して赦さない。彼らが剣で兄弟を追い、憐れみの情を捨て、いつまでも怒りを燃やし、長く憤りを抱き続けたからだ。私はテマンに火を放つ。火はボツラの城郭をなめ尽くす。主はこう言われる。アンモンの人々の三つの罪、四つの罪のゆえに、私は決して赦さない。彼らはギレアドの妊婦を引き裂き、領土を広げようとしたからだ。私はラバの城壁に火をつける。火はその城郭をなめ尽くす。戦いの日に鬨の声があがる、嵐の日に烈風が吹く中で。彼らの王は高官たちと共に、捕囚となって連れ去られると主は言われる」。
・エドムやアンモンの具体的な行為は不明である。おそらくは非戦闘員に対する残虐行為があったのであろう。後のバビロン捕囚時のエドムの侵略に対して、預言者たちは繰り返しエドムの審判を告げている。
-オバデヤ1:8-10「その日には必ず、と主は言われる。私はエドムから知者を、エサウの山から知恵を滅ぼす。テマンよ、お前の勇士はおびえる。彼らはひとり残らず殺され、エサウの山から取り去られる。兄弟ヤコブに不法を行ったので、お前は恥に覆われ、とこしえに滅ぼされる」。
・アンモン人の罪もまた戦争時における非戦闘員への残虐行為である。北イスラエルの滅亡(前720年)の原因の一つも非戦闘員への残虐行為であったと列王記記者は語る。
-列王記下15:16-18「メナヘムはティフサとそのすべての住民、領地をティルツァから攻撃した。彼らが城門を開かなかったのでこれを討ち、そのすべての妊婦を切り裂いた・・・彼は主の目に悪とされることを行い、イスラエルに罪を犯させたネバトの子ヤロブアムの罪を一生離れなかった」。
・主は悪を放置されない。主がその民に求められるは礼拝ではなく、正義だとアモスは語り続ける。
-アモス5:21-24「私はお前たちの祭りを憎み、退ける。祭りの献げ物の香りも喜ばない。たとえ、焼き尽くす献げ物を私にささげても、穀物の献げ物をささげても、私は受け入れず、肥えた動物の献げ物も顧みない。お前たちの騒がしい歌を私から遠ざけよ。竪琴の音も私は聞かない。正義を洪水のように、恵みの業を大河のように、尽きることなく流れさせよ」。