江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2012年4月5日祈祷会(ホセア9章、裁きの日は来た)

投稿日:2019年8月21日 更新日:

1.収穫祭に集まった民衆への滅亡預言

・ホセア9章は、収穫祭の祭典を祝うためにベテルの神殿に集まった民衆に話されたホセアの預言だ。イスラエル王国はアッシリアに国土の三分の二を奪われ、今はサマリアとその周辺地のみの都市国家になっている。アッシリアからの軍事的圧力は更に強まり、国家として滅亡の瀬戸際にある。人々はその不安を拭い去るように、祭りに集い、喜び祝う。しかし「祭りを祝うことができない日が来る」とホセアは語る。
−ホセア9:1-4「イスラエルよ、喜び祝うな。諸国の民のように、喜び躍るな。お前は自分の神を離れて姦淫し、どこの麦打ち場においても姦淫の報酬を慕い求めた。麦打ち場も酒ぶねも、彼らを養いはしない。新しい酒を期待しても裏切られる。彼らは主の土地にとどまりえず、エフライムはエジプトに帰り、アッシリアで汚れたものを食べる。主にぶどう酒をささげることもできず、いけにえをささげても、受け入れられない。彼らの食べ物は偶像にささげられたパンだ・・・彼らのパンは自分の欲望のためだ。それを主の神殿にもたらしてはならない」。
・エフライム(イスラエル)はエジプトの奴隷生活に戻る。彼らはアッシリアの地で捕囚となり、異邦の汚れた食べ物を食べるようになるとホセアは預言する。アッシリアに捕らえられたあなた達は異邦の地で主を礼拝することは出来なくなる。またアッシリアが侵攻してきた時、エジプトに逃れる者も出るだろうが、彼らは二度と祖国に戻れず、エジプトの地が彼らの墓場になるだろうとホセアは語る。
−ホセア9:5-6「祝いの日、主の祭りの日に、お前たちはどうするつもりか。見よ、彼らが滅びを逃れても、エジプトが彼らを集め、メンフィスが葬る。彼らの銀も宝物もいらくさに覆われ、天幕には茨がはびこる」。
・ホセアは懲罰(アッシリアの軍事的侵攻)がイスラエルを正気に戻し、彼らが悔い改めることを期待して預言してきた。しかし、彼らは今も預言者を愚か者と嘲笑し、霊的預言を狂っているとして聞かない。ホセアは、今はイスラエル再生の希望を捨て、再生のための浄化作業(滅び)を願う。
−ホセア9:7-9「 裁きの日が来た。決裁の日が来た。イスラエルよ、知れ。お前の不義は甚だしく、敵意が激しいので、預言者は愚か者とされ、霊の人は狂う。預言者はわが神と共にあるが、エフライムは彼を待ち伏せて、その行く道のどこにも鳥を取る者の罠を仕掛け、その神の家を敵意で満たす。ギブアの日々のように、彼らの堕落は根深く、主は彼らの不義に心を留め、その罪を裁かれる」。(*ギブアの罪=士師記19章にある非道の罪)

2.豊穣儀礼と現代

・イスラエルの罪の中心はバアル礼拝だとホセアは指摘する。バアルはカナンの豊穣神であり、イスラエルは荒野を旅してモアブの地に来た時、この偶像神に出会い、魅せられている(民数記25:1-3「イスラエルがシティムに滞在していたとき、民はモアブの娘たちに従って背信の行為をし始めた。娘たちは自分たちの神々に犠牲をささげるときに民を招き、民はその食事に加わって娘たちの神々を拝んだ。イスラエルはこうして、ペオルのバアルを慕ったので、主はイスラエルに対して憤られた」)。
−ホセア9:10「荒れ野でぶどうを見いだすように、私はイスラエルを見いだした。いちじくが初めてつけた実のように、お前たちの先祖を私は見た。ところが、彼らはバアル・ペオルに行った。それを愛するにつれて、ますます恥ずべきものに身をゆだね、忌むべき者となっていった」。
・バアルはカナン土着の自然宗教で、バアル(男神)とアシェラ(女神)が交わることによって、子供や家畜、作物の恵みがもたらされると信じられていた。イスラエルは荒野の放牧生活から平地の農耕生活に移る過程で、このバアル神に惹かれていく。彼らはバアルの聖なる高台で、豊穣繁栄を求めて、神々の像を造り、香をたき、酒を注ぎ、犠牲の動物を食し、性的放逸にふけり、時には息子や娘を火で焼いて捧げた。それは人間の欲望の具体化であり、何をしても良く、まさに「飲めや歌え」の享楽生活を保障するものであった。しかし享楽生活は道徳心を低下させ、人々は利己的になり、強い者に媚び、弱い者を切り捨てる弱肉強食の混乱が進み、国家は衰退して行った。ホセアはそのような社会は必ず滅びると繰り返し預言した。
―ホセア10:6-7「偶像はアッシリアへ運び去られ、大王の貢ぎ物となる。エフライムは嘲りを受け、イスラエルは謀りごとのゆえに辱められる。サマリアは滅ぼされ、王は水に浮かぶ泡のようになる」。
・聖書考古学資料館・津村俊夫氏は、古代のバアル礼拝は現代の「健康と富の神学」と同じだと指摘する(参考資料参照)。現代の人々は自身の健康や繁栄のためのご利益として神を崇拝し、飽くことのない癒しを求めている。そこには「私」しかない。共同体の福利を考慮しない自己利益のみを求める社会もまた滅びるであろうと。
−ホセア10:15「ベテルよ、お前たちの甚だしい悪のゆえに、同じことがお前にも起こる。夜明けと共にイスラエルの王は必ず断たれる」。

*ホセア9章参考資料:聖書考古学セミナー「預言者ホセアと豊穣儀礼〜健康と富の神学を求める時代を警告」
(2011年11月28日クリスチャン・ツデー紙から)

・2011年11月月21日、聖書考古学資料館(東京都千代田区お茶の水クリスチャンセンター内)は、第18回聖書考古学セミナー第二回目として「預言者ホセアと豊穣儀礼」と題したセミナーを開催した。聖書考古学資料館(TMBA)館長津村俊夫氏は、セミナーにおいて旧約聖書の預言者ホセアが生きた時代に広まっていた「豊穣儀礼」について解説し、現代日本社会に住む私たちに、当時の豊穣儀礼と預言者の警告がどのような意味・重要性を持っているかを説明した。
・紀元前8世紀、ホセアが活躍した北イスラエル王国は、経済的・政治的に安定しており、宗教的な堕落が生じていた。当時子牛崇拝が盛んに行われていたことが考古学的見地からも示されており、ホセア書でもその様子が克明に記述されている。前10世紀後半の王国分裂時には、政治的な意図からヤロブアムが金の子牛を二つ造り、イスラエルの民に、エルサレムに上らなくてもそれぞれの地で神を礼拝できるようにさせた。「子牛」という偶像を造ることで、「見えない神」を見える神にしてしまったこと自体が問題であり、偶像を土地、土地で造ることで、それぞれの土地での神が生じ、「ヤハウェの地方神性」が生じるようになっていった。さらに地方神性がはびこるに応じて、それぞれの土地の「ヤハウェ」の配偶者となる女神も生じるようになり、土地、土地に偶像、偽りの神を崇拝する文化がはびこっていき、ヤハウェ宗教の仮面をかぶった「バアル宗教」が盛んに生じるようになった。
・津村氏は「バアル宗教」において非常に注目するべきこととして「創世記にはバアルの記述がどこにもない」ことを挙げた。イスラエルの民がエジプトから荒野の地を通り、カナンに近づくにつれ、バアルを崇拝するようになっていったことが、聖書の記述や出土されたバアルの彫像等によって示されている。紀元前10世紀、ソロモン王が外国の妻たちによる異邦の神の崇拝を合法化してしまったことによって、イスラエルの民の間に様々な宗教の影響が公認された形で入ってくるようになった。紀元前9世紀にはイゼベルとアハブによるバアル崇拝が盛んに行われ、列王記上18章19節には「バアルの預言者450人、アシェラの預言者400人」が生じるようになったことが書かれている。
・その後紀元前8世紀の預言者ホセアの時代においては、経済的・政治的に比較的安定した中にあって、ベテル、ダン、サマリア、テマンとそれぞれの地方において子牛に関係のあるヤハウェが生じており、ヤハウェとバアルの一体化も生じるようになった。当時イスラエル以外の異教の国では、豊穣儀礼として子牛、地方神、アシェラ女神を崇拝することは当前の様に行われていた。豊穣儀礼は繁栄、御利益をもたらすために行われていた儀礼で、「バアル」は豊穣神として祭られており、「良きこと、良きもの」をもたらす豊穣の神であると信じられていた。他にも豊穣の女神として、アナト女神、アシェラ女神、アスタルテ=イシュタル=アフロディテ女神等も崇拝されていたことが、出土された豊穣儀礼文書などから示されている。豊穣儀礼の祭儀の習慣として、人間が「神々」への呼びかけを行い、共感魔術によって「死と悪」の神を征服することが行われ、倫理を超えて「滞りなく」祭儀が行われるようになっていった。紀元前8世紀のイスラエルの歴史において、津村氏は「表面的にはヤハウェを礼拝しているように見えても、実体は限りなくバアル礼拝であった」ことを指摘し、その結果神の裁きが生じ、アッシリアによる捕囚が生じるようになったことを指摘した。
・また紀元前8世紀の繁栄した世の中にはびこった偶像崇拝から、現代社会に当てはまる教訓として、「健康と富の神学の問題」が指摘された。つまり人々が自身の健康や繁栄を求める御利益宗教として「神」を崇拝し、「赦しなしの癒やし」を求める時代となってしまっており、「異教を知れば知るほど、私たちがキリストにあって生きているということが、本当に素晴らしいということがわかってくるのではないか」と述べた。また当時の預言者を通した神の警告を現代に適用すれば、「神との関係の回復」こそ現代の社会にあって大切なのではないかと指摘された。預言者ホセアのメッセージには、偶像崇拝を警告し、創造主のみが民を救いにもたらすことが語られている。津村氏は「背後にカナンの地でバアル崇拝がはびこっていたということを、私たちがまるでその時代の一人であったかのように聞き続けることによって、メッセージの本当の意味を聞くことができるのではないか」と述べた。

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