1.父のヨセフに対する偏愛(37:1-11)
・ヤコブはラケルの子であるヨセフを偏愛し、特別の着物を着せ、他の兄弟と区別した。そのため、兄弟たちはヨセフを憎んだ(長袖の着物=労働服ではない、ヤコブはヨセフには羊飼いの仕事をさせず、手元に置いていた)。
―創世記37:3-4「ヨセフは年寄り子であったから、イスラエルは他のどの子よりも彼を愛して、彼のために長そでの着物をつくった。兄弟たちは父がどの兄弟よりも彼を愛するのを見て、彼を憎み、穏やかに彼に語ることができなかった。」
・ヤコブはある時夢を見て、兄弟や父母が自分を拝礼すると伝え、さらに兄弟たちの怒りをかった。
―創世記37:6-9「どうぞ私が見た夢を聞いてください。私たちが畑の中で束を結わえていたとき、私の束が起きて立つと、あなたがたの束がまわりにきて、私の束を拝みました。」
・古代において夢は神の意思の表明と取られた。ヨセフの夢は後に現実のものとなっている。
―創世記42:6「ヨセフは国のつかさであって、国のすべての民に穀物を売ることをしていた。ヨセフの兄弟たちはきて、地にひれ伏し、彼を拝した。」
・父の偏愛だけでなく、神の恵みもヨセフにあることを見た兄弟たちは一層ヨセフを憎むようになる。
2.ヨセフ、エジプトに売られる(37:12-36)
・父の使いで、ヨセフが兄たちが羊を飼う地まで来た時、兄たちはヨセフを殺してしまおうとした。
―創世記37:18-20「ヨセフが彼らに近づかないうちに、彼らははるかにヨセフを見て、これを殺そうと計り、互に言った、『あの夢見る者がやって来る。さあ、彼を殺して穴に投げ入れ、悪い獣が彼を食ったと言おう。そして彼の夢がどうなるか見よう』」。
・それは単にヨセフを殺すだけでなく神の意思を試みる行為でもあった。最年長のルベンは反対した。
―創世記37:21-22「ルベンはこれを聞いて、ヨセフを彼らの手から救い出そうとして言った、『われわれは彼の命を取ってはならない』。ルベンはまた彼らに言った、『血を流してはいけない。彼を荒野のこの穴に投げ入れよう。彼に手をくだしてはならない』。これはヨセフを彼らの手から救いだして父に返すためであった。」
・もう一人の兄ユダの提案でヨセフはエジプトに売られることになった。
―創世記37:26-27「ユダは兄弟たちに言った、『われわれが弟を殺し、その血を隠して何の益があろう。さあ、われわれは彼をイシマエルびとに売ろう。彼はわれわれの兄弟、われわれの肉身だから、彼に手を下してはならない』。兄弟たちはこれを聞き入れた。」
・兄たちは雄山羊の血を着物に浸し、ヨセフは獣に食われて死んだと父に報告した。父イサクを騙して兄エソウの長子権を騙し取ったヤコブが今、子たちに最愛の子が死んだと騙された。著者はそこに神の裁きを見ている。
―創世記37:33-34「父はこれを見さだめて言った、『わが子の着物だ。悪い獣が彼を食ったのだ。確かにヨセフはかみ裂かれたのだ』。そこでヤコブは衣服を裂き、荒布を腰にまとって、長い間その子のために嘆いた。」
・この物語の主役はヨセフではなく、ヤコブ・イスラエルだ。イスラエル部族が神の不思議な導きによってエジプトに下り、部族から国民として養い育てられるに至ることが物語の主題である。
―創世記45:4-8「私はあなたがたの弟ヨセフです。あなたがたがエジプトに売った者です。しかし私をここに売ったのを嘆くことも、悔むこともいりません。神は命を救うために、あなたがたよりさきに私を遣わされたのです。この二年の間、国中に飢饉があったが、なお五年の間は耕すことも刈り入れることもないでしょう。神は、あなたがたのすえを地に残すため、また大いなる救をもってあなたがたの命を助けるために、私をあなたがたよりさきに遣わされたのです。それ故わたしをここに遣わしたのはあなたがたではなく、神です。」
・神は悪を変えて善と為さる。ヤコブの偏愛が兄たちのヨセフに対する憎しみを呼びヨセフをエジプトの奴隷に売るが、その行為がイスラエル民族を救うための出来事であったことがやがて明らかになる。
―創世記50:19-20「ヨセフは彼らに言った、「恐れることはいりません。わたしが神に代ることができましょうか。あなたがたはわたしに対して悪をたくらんだが、神はそれを良きに変らせて、今日のように多くの民の命を救おうと計らわれました。」
・精神分析の祖J.フロイトはオーストリヤ生れのユダヤ人であったが、後にナチスに追われてイギリスに亡命している。彼の最初の著作は「夢判断」であり、オーストリヤ(カナン)からイギリス(エジプト)への移住をヨセフの旅と比較している(ヨセフは夢見る者=37:19であった)。