江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2005年12月18日説教(サムエル記上2:1-10、貧しい者を顧みられる神)

投稿日:2005年12月18日 更新日:

1.子を与えられない女性の祈り

・今日、私たちはアドベント第四週を迎えた。来週はクリスマス、主イエス・キリストの降誕を祝う時だ。イエスの母マリアは、聖霊によって身ごもった事を知らされた時、神を讃美して歌った「私の魂は主をあがめます。この主のはしためにも、目を留めて下さったからです」(ルカ1:47-48)。自分のような者を神は選んで下さった、感謝しますとマリアは歌った。子供を身ごもる、それは女性だけが味わうことの出来る至上の喜びだ。聖書にはその喜びを歌ったもう一つの歌がある。サムエルの母、ハンナの歌だ。今日は、ハンナ、マリア、二人の母親の賛歌を通して、クリスマスのメッセージを聞きたい。
・ハンナは預言者サムエルの母であるが、サムエルが生まれるまでには多くの出来事があった。その次第がサムエル記上1章に述べられている。ハンナはエフライムの人、エルカナの妻であったが、不妊であった。夫のエルカナは妻ハンナを愛していたが、跡継ぎの子を得るために、もう一人の妻を迎えた。二番目の妻ペニナは多くの子を生んだ。彼女は自分が子を産んだ事を誇って、子を生めないハンナを思い悩ませ、苦しめた。当時、子のない女性は神に呪われているとされていた。ペニナから受ける辱め、それ以上に子を与えてくれない神に対する恨み、ハンナは毎日を泣き暮らしていた。夫は妻の痛みがわからず、「私がお前を愛していればいいではないか」と慰めるが、ハンナの心は晴れない。ハンナは家の中にも外にも居場所がなくなり、涙に明け暮れていた。
・子を生む、女性にだけ与えられた大きな喜びだ。しかし、その喜びを持てずに悲しむ女性は多い。現代では、何とかして子を持ちたいと願い、不妊治療を受ける女性もいる。それでも子を持てない人もいる。聖書はイエスがそのような女性たちを慰められたと記す。あるとき、イエスの説教に感動した婦人が叫んだ「なんと幸いなことでしょう、あなたを宿した胎、あなたが吸った乳房は」(ルカ11:27)。それに対してイエスは言われた「幸いなのは神の言葉を聞き、それを守る人だ」。女性は子を産むことこそ幸いだという世の道徳にイエスは同調されなかった。女性も男性も神の言葉を聞き、それを守る人こそ幸いなのだとイエスは言われている。子を産むかどうか、どんな子を産むかで、価値付けられてきた女性たちの悲しみをイエスは知っておられたからだ。私たちがクリスマスで待ち望む方は、私たちの悲しみを知っておられる方だ。
・さて、エルカナ一家は毎年の祭りに、シロの神殿に参り、お祝いの食事をする慣わしだった。ある年、祭りでシロへ出かけ、祝いの席についたが、ハンナは悲しみの余り、食事も取れなかった。彼女は主の神殿に行き、激しく泣いた。そして泣きながら祈った「主よ、はしための苦しみを見てください。子を与えて、私に加えられたこの辱めを晴らしてください」。彼女が求めたのは、子が与えられて、ペニナを見返すことだった。しかし、祈るうちに彼女は変えられていった。「自分の苦しみを知って欲しい、助けて欲しい」という祈りが、「もし子を授けられたら、その子はあなたに捧げます」という祈りに変わっていった。神殿の祭司エリはそのハンナの祈りを聞き、彼女に言った「安心して帰りなさい。主があなたの願いをかなえて下さるように」。彼女の訴えは神に届き、彼女は身ごもって男の子を生んだ。熱心に祈った結果、子が与えられたため、彼女は子をサムエル(神聞きもう)と名づけた。

2.神の業を見た女性の讃美

・ハンナは子が乳離れするまで手元に置き、乳離れした時、子を献げる為に、シロの神殿に連れて行き、祭司エリに預けた。その時、ハンナが歌った讃美がサムエル2章の「ハンナの賛歌」である。ハンナは歌った「主にあって私の心は喜び、主にあって私は角を高く上げる。私は敵に対して口を大きく開き、御救いを喜び祝う」(2:1)。主は私の願いを聞いて下さった。私のようなはしためをも御心に留めて下さった。私を呪われた者と侮った敵の前で、私の恥をそそいで下さった。彼女は続ける「子のない女は七人の子を産み、多くの子を持つ女は衰える」(2:5)。不妊の女と卑しめられた私に子が与えられ、多くの子を産んだと誇るペニナをあなたは砕いて下さった。
・ハンナの祈りは私たちの祈りと同じだ。自分の思いしか祈らない。「子を与えてください、子を与えて私の恥をそそいで下さい。子を産んで憎いペニナを見返してやりたいのです」。神はこのような、わがままな祈りさえ聞かれる。そしてわがままな祈りが聞かれた者は、やがて自分の思いを離れて、主に感謝するようになる。その讃美が6節以下にある。「主は命を絶ち、また命を与え、陰府に下し、また引き上げて下さる。主は貧しくし、また富ませ、低くし、また高めて下さる」(2:6-7)。榎本保郎牧師は解説して言う「ハンナの喜びは自分の恥が取り除かれたというところに留まらなかった。彼女は求めて子を与えられたと言う体験を通して、世界は全て神の愛の業の中にある事を示された。それ故に殺されることも、陰府に下ることも、貧しくなることも、低くされることも、もはや神を知った彼女にとっては闇でもなければ絶望でもなかった」(榎本保郎「旧約聖書1日1章」から)。
・ハンナは子に恵まれず、悲しみを強いられた。主が「ハンナの胎を閉ざしておられた」(1:5)からだ。不妊の女性であるからこそ、子が与えられるようにこんなにも深く祈った。苦労もなく子が与えられたならば、この祈りは生まれず、この祈りがなければサムエルは生まれなかった。自分の限界を知らされたからこそ、ハンナは主により頼み、主は答えて下さった。ハンナの涙が偉大な預言者を産み、ハンナの涙が後世まで人々が口ずさむ賛歌を生んだ。悲しみこそ、喜びの始まりなのだ。私たちは光をともして、キリストの降誕を待つ。闇の中に住んでいる故に、光であるキリストを待ち焦がれるのだ。

3.ハンナの祈りがマリアの賛歌を導いた

・今日、私たちは招詞として、ルカ1:47−48を選んだ。次のような言葉だ「私の魂は主をあがめ、私の霊は救い主である神を喜びたたえます。身分の低い、この主のはしためにも、目を留めて下さったからです。今から後、いつの世の人も、私を幸いな者と言うでしょう」。
・この賛歌はマリアが神の子を身ごもっている事を知らされ、その喜びを伝えるために、いとこのエリサベトを訪問した時に歌った歌だ。一見すると、子を身ごもった母親の喜びの歌のように聞こえるが、その裏には多くの葛藤があった。御使いがマリアに現れ「あなたは男の子を産む。その子こそ神の子である」と告げた物語は受胎告知として有名だ。「マリアよ、おめでとう」、アベ・マリア、私たちはこの受胎告知をロマンチックな出来事として捉える。しかし、告げられた出来事は人間的にはめでたいどころか、非常に重い出来事であった。マリアはまだ、結婚していない。未婚の娘が子を産む、当時においても現代においても、それは世の非難を招く出来事だ。当時は、姦淫を犯した者は石を投げて殺せと云う法があった時代だ。夫もないのに子を生む、世間は姦淫を犯したとしか見ないだろう。だからマリアは不安におののいた。彼女は人知れず苦しみ、祈ったであろう。その祈りに神は応えられた。婚約者ヨセフは、最初はマリアを離婚しようと決意していた。しかし、御使いから「マリアの胎内に宿る子は聖霊によるものだから、彼女を妻として迎えなさい」と告げられ、受け入れてマリアを妻として迎えた。マリアは喜びに包まれた。だからこそ、この賛歌を歌えたのだ。
・「私の魂は主をあがめ、私の霊は救い主である神を喜びたたえます」。あなたは私に子を持つことと許して下さった。あなたはヨセフに働きかけ、子が聖霊によって身ごもったという信じられない出来事を信じさせて下さった。ヨセフは私を妻として迎えてくれた。この幸いを感謝します。「身分の低い、この主のはしためにも、目を留めて下さった」。あなたはこの卑しい、無に等しい者も御心に留めていただき、子を与えて下さった。あなたは偉大な事をこの身になさいました。そして、彼女はハンナの歌を歌う「主はその腕で力を振るい、思い上がる者を打ち散らし、権力ある者をその座から引き降ろし、身分の低い者を高く上げ、飢えた人を良い物で満たし、富める者を空腹のまま追い返されます」。マリアは安息日ごとに会堂で詠まれる聖書を聴き、ハンナの賛歌も暗誦するほど親しんでいたのであろう。全てを支配される神、悲しむ者、貧しい者を顧みて下さる神への賛歌を、彼女はハンナの歌に合わせて歌った。
・マリアもまた困難な状況から神が救って下さった経験をした。だから、心からなる讃美を主に捧げた。ヨセフがマリアを妻として受け入れなければ、マリアは死んでいたかもしれない、あるいは子を中絶していたかも知れない。そうなれば、イエス・キリストは生まれなかった。イエスはユダヤ人からは「私生児」とののしられている。イエスが「子を生む女性が幸せではなく、神の言葉を聞き、それを守る人こそ幸いだ」と言われた時、母マリアと御自身の苦しみを思い起こされたのかもしれない。主は御自身が苦しまれたからこそ、私たちの苦しみを知って、憐れんで下さる。「御自身、試練を受けて苦しまれたからこそ、試練を受けている人たちを助けることがおできになるのです」(ヘブル2:18)。私たちの悲しみも苦しみも知っておられ、求めればいつでも手を伸ばして下さる方を、私たちは知っているのだ。だから、私たちも、ハンナと共に、マリアと共に、主を讃美するのだ。

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