1.ヤコブの二人の妻の争い
・ヤコブはハランで11人の息子と1人の娘を得た。子供たちはレアとラケルの妻の座を巡る争いの中で生まれている。レアは子を産んだがヤコブに疎まれ、ラケルは愛されたが子を恵まれなかった。
―創世記29:30-31「こうして、ヤコブはラケルをめとった。ヤコブはレアよりもラケルを愛した。そして、更にもう七年ラバンのもとで働いた。主は、レアが疎んじられているのを見て彼女の胎を開かれたが、ラケルには子供ができなかった」。
・当時の女性にとって、祝福とは子が与えられることである。美しいラケルは子が与えられず、砕かれる。
―創世記30:1-2「ラケルは、ヤコブとの間に子供ができないことが分かると、姉を妬むようになり、ヤコブに向かって『私にもぜひ子供を与えてください。与えてくださらなければ、私は死にます』と言った。ヤコブは激しく怒って、言った『私が神に代われると言うのか。お前の胎に子供を宿らせないのは神御自身なのだ』」。
・他方、レアは子を与えられたがヤコブの愛はなかった。レアもまた砕かれる。恋結び(マンドレイク)は、その根が麻薬作用を持つ当時の媚薬であった。
―創世記30:15「レアは言った『あなたは、私の夫を取っただけでは気が済まず、私の息子の“恋なすび”まで取ろうとするのですか』。『それでは、あなたの子供の“恋なすび”の代わりに、今夜あの人があなたと床を共にするようにしましょう』とラケルは答えた」。
・ラケルは何とかして夫の子を持ちたいと思い、仕え女のビルハを夫のもとに入れて子を持とうとする。
―創世記30:3-8「ラケルは、『私の召し使いのビルハがいます。彼女の所に入ってください。彼女が子供を産み、私がその子を膝の上に迎えれば、彼女によって私も子供を持つことができます』と言った。ラケルはヤコブに召し使いビルハを側女として与えたので、ヤコブは彼女の所に入った。やがて、ビルハは身ごもってヤコブとの間に男の子を産んだ。そのときラケルは『私の訴えを神は正しくお裁き(ディン)になり、私の願いを聞き入れ男の子を与えてくださった』と言った。そこで、彼女はその子をダンと名付けた。ラケルの召し使いビルハはまた身ごもって、ヤコブとの間に二人目の男の子を産んだ。そのときラケルは『姉と死に物狂いの争いをして(ニフタル)、ついに勝った』と言って、その名をナフタリと名付けた」。
・レアも対抗して、仕え女のジルパをヤコブのもとに入れる。こうしてヤコブの子は増えていった。
―創世記30:9-13「レアも自分に子供ができなくなったのを知ると、自分の召し使いジルパをヤコブに側女として与えたので、レアの召し使いジルパはヤコブとの間に男の子を産んだ。そのときレアは『なんと幸運な(ガド)』と言って、その子をガドと名付けた。レアの召し使いジルパはヤコブとの間に二人目の男の子を産んだ。そのときレアは『なんと幸せなこと(アシェル)か。娘たちは私を幸せ者と言うにちがいない』と言って、その子をアシェルと名付けた」。
・終に神はラケルの胎を開き、子を与えられた。この子がヨセフである。このヨセフがやがて一族をエジプトに導き、レアの子レビの子孫からモーセが起こされ、民をエジプトから約束の地に導く。その約束の地で国を作ったのがレアの子ユダの子孫であるダビデであり、そのダビデからイエス・キリストが生まれる。
―創世記30:22-24「しかし、神はラケルも御心に留め、彼女の願いを聞き入れその胎を開かれたので、ラケルは身ごもって男の子を産んだ。そのときラケルは『神が私の恥をすすいでくださった」と言った。彼女は『主が私にもう一人男の子を加えてくださいますように(ヨセフ)」と願っていたので、その子をヨセフと名付けた」。
2.ヤコブと叔父ラバンの争い
・14年間ラバンに仕えたヤコブは故郷への帰還を願うが、ラバンは良い働き手であるヤコブの帰国を渋る。
―創世記30:27-28「『もし、お前さえ良ければ、もっといてほしいのだが。実は占いで、私はお前のお陰で、主から祝福をいただいていることが分かったのだ』とラバンは言い、更に続けて『お前の望む報酬をはっきり言いなさい。必ず支払うから』と言った」。
・ヤコブは羊と山羊の群れの中から、ぶちとまだらのものを報酬として申し出る。ほとんどの羊は白く、ほとんどの山羊は黒い。ぶちやまだらはまれであり、この取引はラバンを納得させた。ヤコブの用いた方法は胎教であった。母親が妊娠中に見たものが胎児に伝わり影響を与える。ヤコブは群れの水のみ場に皮をはいで筋を作り、交互に黒白の筋を残した枝を置き、その枝の前で家畜たちを交尾させた。
―創世記30:38-39「(ヤコブは)家畜の群れがやって来たときに群れの目につくように、皮をはいだ枝を家畜の水飲み場の水槽の中に入れた。そして、家畜の群れが水を飲みにやって来たとき、さかりがつくようにしたので、家畜の群れは、その枝の前で交尾して縞やぶちやまだらのものを産んだ」。
・このようにしてヤコブの家畜は増え、ラバンの家畜は減っていった。このことが新しい紛争を招く。
―創世記31:1-2「ヤコブは、ラバンの息子たちが『ヤコブは我々の父のものを全部奪ってしまった。父のものをごまかして、あの富を築き上げたのだ』と言っているのを耳にした。また、ラバンの態度を見ると、確かに以前とは変わっていた」。
・この背景に創世記の著者が見るのは神の経綸であった。神はヤコブを祝福され、ラバンを呪われた。
―創世記31:8-9「お父さんが『ぶちのものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみなぶちのものを産むし、『縞のものがお前の報酬だ』と言えば、群れはみな縞のものを産んだ。神はあなたたちのお父さんの家畜を取り上げて、私にお与えになったのだ」。
・古代において人々が求めたのは神の祝福であった。この祝福を得ようとして人々は智恵を競い合う。ヤコブはエソウに与えられるべき祝福を騙し取った。そのために約束の地を追われ、異郷の地で20年間の苦労をする。しかし、神はヤコブを見捨てず、祝福を与えられた。聖書は人間の智恵を超えて働かれる神の経綸をここに示す。
―ローマ9:13-16「『私はヤコブを愛し、エサウを憎んだ』と書いてあるとおりです。では、どういうことになるのか。神に不義があるのか。決してそうではない。神はモーセに『私は自分が憐れもうと思う者を憐れみ、慈しもうと思う者を慈しむ』と言っておられます。従って、これは、人の意志や努力ではなく、神の憐れみによるものです」。
・私たちも今神の憐れみを受けて教会につながるものになり、この教会の上に神の祝福があることを感じる。私たちがこの祝福を信じ、導きに従って教会を形成していった時、祝福は目に見える形をとっていく。
―申命記28:1「もし、あなたがあなたの神、主の御声によく聞き従い、今日私が命じる戒めをことごとく忠実に守るならば、あなたの神、主は、あなたを地上のあらゆる国民にはるかにまさったものとしてくださる」。
3.創世記30章から考えたこと
・ヤコブは有能の故に、ラバンから独立を引き留められた。世の有能とは役に立つことである。今日、雇用者側から「有能ではない(ローパフォーマー)」と認定されたら、勤め先を辞めるべきなのだろうか。下記記事はこの世の営みの冷たさを指す。
−朝日新聞2016年2月22日記事「昨年6月、製紙大手の王子ホールディングス(HD)の子会社で働く50代の男性は、会議室に呼び出され、2人の上司から「転職支援制度を受けてほしい」と切り出され、再就職支援の案内を渡された・・・7月、上司は「会社に籍を置いたまま、人材会社へ行って転職先を探してください」と通告した。男性は断れないと思い、退職に合意。現在、人材会社で転職先を探しているが、提案されるのは給料がこれまでの半分程度の仕事ばかりだ。王子HDの内部資料では、男性の2015年3月時点の評価は「D」。リストアップされた人は「D」や最低の「E」ばかりだ。こうした人は「ローパフォーマー(ローパー)」とされ、退職勧奨の対象となった。王子HDは「業績の悪化で人員削減に取り組んだ。グループ内で活躍や能力発揮を期待することが難しいと判断した従業員に対し、新しい環境への転進を支援することが双方にとって最善の選択肢と判断した」とする。子会社は2年連続の赤字だが、王子HDは黒字を確保し、16年3月期も前年比44%増の250億円の純利益を予想している。「(会社に残った場合)年収は300万円前後。そこまで下がっていくことだよ。底辺まで下げますよ」。昨年11月、退職勧奨を受けた王子グループの男性は上司からそう迫られ、人材会社で仕事を探すよう指示された。「理不尽な理由で何回も繰り返し面談を受けた。孤立し、怒りで精神的に追い詰められた」。