1.エレミヤに哀願するゼデキヤ王
・エレミヤ21〜24章は王に対するエレミヤの預言を集めるが、必ずしも年代順ではない。その中で21章はバビロン軍がエルサレムを包囲し、困窮したゼデキヤ王がエレミヤに執り成しの祈りを求めに来た際の出来事が記されている。
-エレミヤ21:1-2「ゼデキヤ王に派遣されて、マルキヤの子パシュフルとマアセヤの子、祭司ゼファニヤが来たとき、主からエレミヤに臨んだ言葉。彼らは言った『どうか、私たちのために主に伺ってください。バビロンの王ネブカドレツァルが私たちを攻めようとしています。主はこれまでのように驚くべき御業を、私たちにもしてくださるかもしれません。そうすれば彼は引き上げるでしょう』」。
・イスラエルは前597年にバビロンに征服され(第一次バビロン捕囚)、ゼデキヤはバビロンに擁立された王だ。しかし彼は主戦派に押され、バビロンに反旗を翻したため、バビロン軍がエルサレムを包囲していた(前589〜587年)。
-列王記下25:1-2「ゼデキヤの治世第九年の第十の月の十日に、バビロンの王ネブカドネツァルは全軍を率いてエルサレムに到着し、陣を敷き、周りに堡塁を築いた。都は包囲され、ゼデキヤ王の第十一年に至った」。
・支配者たちは、かつてイザヤの時代(前701年)に時のヒゼキヤ王がイザヤを訪問し、執り成しの祈りを頼んだところ、アッシリア軍が突然包囲を解き、故国に帰った奇跡(神風)が再び起こるのではとの期待があった。
-列王記19:5-7「ヒゼキヤ王の家臣たちがイザヤのもとに来ると、イザヤは言った『・・・主なる神はこう言われる。あなたは、アッシリアの王の従者たちが私を冒涜する言葉を聞いても、恐れてはならない。見よ、私は彼の中に霊を送り、彼がうわさを聞いて自分の地に引き返すようにする。彼はその地で剣にかけられて倒される』」。
・しかしこのたびのエレミヤは要請を拒否する「あなたがたはバビロン軍と城壁の外で戦っているが、主はバビロン軍を城壁の中に入れ、あなた方を撃たれるだろう」と。あなた方が敵対しているのはバビロン軍ではなく主なのだと。
-エレミヤ21:3-5「ゼデキヤにこう言いなさい。イスラエルの神、主はこう言われる。見よ、お前たちを包囲しているバビロンの王やカルデア人と、お前たちは武器を手にして戦ってきたが、私はその矛先を城壁の外から転じさせ、この都の真ん中に集める。私は手を伸ばし、力ある腕をもってお前たちに敵対し、怒り、憤り、激怒して戦う」。
2.王の哀願を拒否するエレミヤ
・エレミヤは王の使者に降伏を勧める。バビロン軍の背後におられるのは神であり、神と戦うなと。
-エレミヤ21:8-10「あなたはこの民に向かって言うがよい。主はこう言われる。見よ、私はお前たちの前に命の道と死の道を置く。この都にとどまる者は、戦いと飢饉と疫病によって死ぬ。この都を出て包囲しているカルデア人に、降伏する者は生き残り、命だけは助かる。私は、顔をこの都に向けて災いをくだし、幸いを与えない、と主は言われる。この都はバビロンの王の手に渡され、火で焼き払われる」。
・エレミヤはバビロン軍を、イスラエルを罰する「神の鞭」とみている。神に逆らえば滅びしかないと。
-エレミヤ27:5-8「私は、大いなる力を振るい、腕を伸ばして、大地を造り、また地上に人と動物を造って、私の目に正しいと思われる者に与える。今や私は、これらの国を、すべて私の僕バビロンの王ネブカドネツァルの手に与え、野の獣までも彼に与えて仕えさせる。 諸国民はすべて彼とその子と、その孫に仕える。しかし、彼の国にも終わりの時が来れば、多くの国々と大王たちが彼を奴隷にするであろう。バビロンの王ネブカドネツァルに仕えず、バビロンの王の軛を首に負おうとしない国や王国があれば、私は剣、飢饉、疫病をもってその国を罰する、と主は言われる」。
・「命の道と死の道」、申命記でモーセが人々に語った遺言の言葉をエレミヤは今繰り返す。
-申命記30:15-18「見よ、私は今日、命と幸い、死と災いをあなたの前に置く。私が今日命じるとおり、あなたの神、主を愛し、その道に従って歩み、その戒めと掟と法を守るならば、あなたは命を得、かつ増える・・・もしあなたが心変わりして聞き従わず、惑わされて他の神々にひれ伏し仕えるならば・・・あなたたちは必ず滅びる」。
・この結果、エレミヤは王の逆鱗に触れ、捕えられる。王の望む預言をせず、逆に滅亡を預言したからだ。
-エレミヤ32:1-5「ユダの王ゼデキヤの第十年、ネブカドレツァルの第十八年のことであった。そのとき、バビロンの王の軍隊がエルサレムを包囲していた。預言者エレミヤは、ユダの王の宮殿にある獄舎に拘留されていた。ユダの王ゼデキヤが、『なぜ、お前はこんなことを預言するのか』と言って、彼を拘留したのである」。
・エレミヤは裏切り者と呼ばれた。しかし、国を愛するゆえに彼は滅亡を預言する。矢内原忠雄も1937年「神の国」という講演を行い、「日本の理想を生かすために、一先ずこの国を葬って下さい」と言い切り、東大教授を免職された。
-矢内原忠雄・神の国から「今日は、虚偽の世において、我々のかくも愛したる日本の国の理想、あるいは理想を失った日本の葬りの席であります。私は怒ることも怒れません。泣くことも泣けません。どうぞ皆さん、もし私の申したことがおわかりになったならば、日本の理想を生かすために、一先ずこの国を葬ってください」。