江戸川区南篠崎町にあるキリスト教会です

日本バプテスト連盟 篠崎キリスト教会

2006年12月24日クリスマス礼拝説教(ルカ2:1−7、難民イエス)

投稿日:2006年12月24日 更新日:

1.馬小屋で生まれられたイエス

・私たちは、今日、イエス・キリストの誕生日をお祝いして、クリスマス礼拝の時を持ちます。クリスマス=クライスト・ミサ、キリストの礼拝の意味です。教会は伝統的に12月25日をイエス・キリストの誕生日として祝ってきましたが、歴史上はイエスがいつお生まれになったのか、わかっていません。12月25日をイエスの誕生日として祝うようになったのは、4世紀頃からで、当時行われていた冬至の祭りを、教会がキリストの誕生日に制定してからです。ローマ暦の冬至は12月25日です。冬至は夜が一番長い時、闇が一番深まる時です。しかしまた、それ以上に闇は深まらず次第に光が長くなる時です。人々はこの冬至の日こそ、光である救い主の誕生日に最もふさわしいと考えるようになりました。今日、私たちは、イエスの誕生の次第をルカ、マタイ両福音書から聞いていきます。
・ルカはキリストがどのような歴史の中で生まれて来られたかを記します。「そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である」(2:1-2)。ローマ帝国が世界を支配し、シリアもまた、ローマの支配下にありました。そのシリア州ユダにおいて、ある出来事が起こったとルカは記します。その出来事とは、イエスの両親ヨセフとマリアが、住民登録をするために、ガリラヤのナザレから、ユダのベツレヘムまで、旅をする出来事でした。ナザレからベツレヘムまで120キロの道のりです。ヨセフの妻マリアは身重でしたから、旅は難儀だったと思われます。彼らは一週間以上もかけて歩き、ベツレヘムに到着しました。しかし、町は住民登録をする人々であふれ、彼らには泊まる宿もなく、馬小屋に案内されました。その馬小屋の中で、マリアは産気づき、幼子が生まれました。二人は生まれたばかりの子を布にくるみ、飼い葉桶の中に寝かせたとルカは記します。神の子と後に言われるようになった方は、宿屋に泊まることも出来ず、馬小屋の中で生まれられたのです。
・当時、イエスがベツレヘムに生まれられたことは誰も知りませんでした。だから、歴史はイエスの誕生日を知りません。しかし、人間の歴史はローマ皇帝の誕生日は知っています。皇帝アウグストゥスは紀元前62年9月23日に、ローマ貴族の家に生まれました。成人してローマの執政ユリウス・カエサルの養子となり、カエサル死後、政敵との争いに勝利を収めて、初代のローマ皇帝となります。彼の治世下、ローマは帝国として統一され、パックス・ロマーナ(ローマの平和)と呼ばれる繁栄期を迎えます。人々は彼を「救い主」と呼んで崇めました。
・ベツレヘムで一人の幼子が生まれたのを、皇帝は知りませんし、総督も知りませんし、ユダヤの支配者も知りませんでした。幼子は成長し、やがてローマ帝国への反逆者として、十字架につけられて死なれます。時のローマ皇帝テベリウスはイエスが死んだことも知りませんでした。だから、イエスがいつ死なれたのかも、歴史は記録していません。誰も知らないうちに一人の幼子が生まれ、歴史も記録しない出来事として一人の人が十字架で死んでいきました。しかし、聖書は、皇帝アウグストゥスの時代に、ローマ帝国のはずれに一人の幼子が生まれ、皇帝テベリウスの時代に十字架で死んでいった、このことこそ世界史を書き換える出来事であったと主張しています。今日、アウグストゥスを救い主として礼拝する人は誰もいません。しかし、世界中の何億人と言う人がクリスマスを祝って、教会に集まります。馬小屋で生まれられたキリストが、そのキリストを馬小屋に追いやったローマ皇帝に勝利したのです。何が起きたのでしょうか。

2.難民となられたイエス

・今日の招詞にマタイ1:23を選びました。次のような言葉です「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。この名は、“神は我々と共におられる”という意味である」。マリアが身ごもった時、天使が現れ、マリアに祝福を伝えたとされる、受胎告知の一節です。マタイは、神の子が生まれるという喜ばしい出来事の後に、血まなぐさい出来事があったことを伝えています。イエスが生まれられた時、東方にしるしの星が現われ、星に導かれた三人の占星術師たちが、エルサレムに来ました。彼らはヘロデ王の宮廷を訪ね、「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。私たちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです」と伝えます。ユダヤ人の王がお生まれになった、この知らせは地上の王であるヘロデに不安をもたらしました。ヘロデは、自分を脅かす者が生まれたとの知らせに猜疑心を強め、王位を守るために新しく生まれた王を探し出して殺そうとします。彼は兵士に命令を出し、ベツレヘムとその一帯の2歳以下の男の子たちをすべて殺させたとマタイは記します。
・ベツレヘムで殺された幼子たちの親や家族は、何が起きたのか、何故こんなことをされねばならないのか、わからなかったでしょう。彼らはキリストが生まれた事も、そのことに危惧を感じたヘロデが、可能性のあるすべての幼子を殺そうとしたことも知りませんでした。何も知らないうちに、家族は、突然、悲しみのどん底に突き落とされてしまいました。彼らは思ったでしょう「神は何故このような悲惨なことを許されるのか」。その混乱の中で、生まれたばかりのイエスは父ヨセフに連れられてエジプトに逃れられました。クリスマスとは、生まれたばかりのイエスが、ヘロデにより命を狙われて避難され、ベツレヘムに残った他の子供たちは無残にも殺されていった出来事だとマタイは述べています。馬小屋で生まれられたキリストは、生まれるやすぐに難民となられたのです。

3.このイエスに従う

・マリアは泊まる所がなく、馬小屋で子を産みました。誰もマリアが身重であることに気を配らなかった、貧しい女性がどこで子を産もうと彼らに関係がなかったからです。アフリカの多くの国の平均寿命は40歳前後です。多くの子どもたちが5歳になる前に死んでいきます。子どもたちは何故死ぬのでしょうか。十分に食べられず、衛生環境も悪いからです。世界には60億の人口を養うだけの食料生産があるのに、食べられない人々がいます。それは食料配分が豊かな国に偏り、貧しい国には行かないからです。日本では毎日何万食もの期限切れ食料がコンビニやスーパーから廃棄されています。豊かな国の人たちの快適な食生活を維持するために、貧しい国の幼子が栄養不足で死んでいます。誰もアフリカの子どもたちに気を配らないゆえに、子どもたちの命が損なわれています。曽野綾子さんの書いた「時の止まった赤ん坊」という小説があります。マダガスカルの産院で働く日本人シスターの日常を描いた本です。マダガスカルでは多くの赤ん坊は未熟児で生まれます。母親の栄養が悪いからです。未熟児で生まれ、十分な医療も施されないため、多くの子どもたちが死産か、あるいは生まれてまもなく死んでいきます。今日でも、馬小屋で幼子が生まれる事態は続いているのです。マリアを馬小屋に追いやったのは私たちであり、アフリカの子どもたちの命を奪っているのは私たちなのだと問われています。イエスは自らが馬小屋で生まれられることを通して、私たちにそのことを考えるように言われているのです。
・ヘロデは自分の地位を守るために幼子たちを殺しました。彼は残虐です。他方、日本では年間30万件の人工妊娠中絶があります。統計によれば、中絶者の多くは20歳台、30歳台の既婚婦人です。収入が低いためこれ以上子どもを持てない、あるいは仕事を続けるために子を生むことが出来ない、等の経済的理由による中絶が多いと言われています。1998年の調査によれば、既婚女性の23%、未婚女性の7%が中絶経験者です。この日本で、私たちの国で、自分たちの生活水準を維持するために、毎年30万人の幼子が犠牲として葬られている事実を私たちはどのように受け止めるのでしょうか。この私たちと、自分の王位を守るために数十人の幼子を殺したヘロデと、どちらの罪が重いのでしょうか。ヘロデだけが特別の悪人ではなく、私たちの中にもヘロデがいるのです。私たちの心の中に闇があります。そのことをわかって欲しいとイエスは、自ら難民となられたのです。
・私たちの心の中には闇があります。この闇が聖書で言う罪です。マリアを馬小屋に追いやった人々の心の闇、ヘロデがベツレヘムの幼子を殺した心の闇は、私たちの中にもあるのです。そして私たちはある時、自分が苦難の中に追い込まれて、つまり自分の十字架を負わされて、初めて、この闇の存在に気づきます。そしてキリストがこの闇をなくすために、馬小屋で生まれ、難民となり、十字架で死んでいかれたことを知ります。キリストの十字架を見上げて、私たちは自分の罪を知り、悔い改めます。その悔い改めを通して、心の中の闇が解け始めます。ヨハネは言いました「イエスは、私たちのために、命を捨てて下さいました。そのことによって、私たちは愛を知りました。だから、私たちも兄弟のために命を捨てるべきです。」(〓ヨハ3:16-17)。自分のためには他者をも殺す私たちが、他者のために命を捨てようという存在に変わる出来事がここに起きています。それがクリスマスを通して始まった、救済の出来事なのです。この救済の出来事に参加するようにと私たちは招かれています。クリスマスは新しい人生への招きの時なのです。

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