・冒頭に知恵を讃える格言を掲げたコヘレトは、自分は賢者のように、この格言を解釈できるのだと誇り、王の権威を主張する。その一方、彼は人間の能力には限界があると言う。
-コヘレト8:1−5「『人の知恵は顔に光を添え、固い顔も和らげる。』賢者のように、この言葉の解釈ができるのは誰か。それはわたしだ。すなわち、王の言葉を守れ。神に対する誓いと同様に。気短に王の前を立ち去ろうとするな。不快なことに固執するな。王は望むままにふるまうのだから。王の言った言葉が支配する。誰も彼に指図することはできない。命令に従っていれば、不快な目に遭うことはない。賢者はふさわしい時という事ということを心得ている。」
・知恵は内面から人を輝かせる、という格言を自らになぞらえたうえで、コヘレトはわたしに服従せよ、神に誓うように王の言葉に従えと迫る。王は気ままに振る舞うが、誰も王に指図することはできないのだ。王の命令に従っていれば嫌な思いをしないですむ。賢者なら時と場所を心得て、出所進退を決めるものだ。すでに王としてのコヘレトの権威が揺らでいたから、これらの言葉が発せられのではないだろうか。なぜなら、王の権威が常の如く保たれていれば、必要のない強制的な言葉だと考えられるからである。
-コヘレト8:6−8「何事にもふさわしい時があるものだ。人間には災難のふりかかることが多いが、何事が起こるかを知ることはできない。どのように起こるかも、誰が教えてくれようか。人は霊を支配できない。霊を押しとどめることはできない。死の日を支配することもできない。戦争を免れる者もない。悪は悪を行う者を逃れさせはしない。」
・人は思わぬ時に災難に遭うが、予知はできないばかりか、その理由は誰も教えられない。目に見えず、触れることもできない霊の働きを人は制御できない。人は必ず訪れる死を避けられない。戦を防ぐこともできない。悪人はその悪により救われることはない。
-コヘレト8:9−10「わたしはこのようなことを見極め、太陽の下に起こるすべてのことを、熱心に考えた。今は、人間が人間を支配して苦しみをもたらすような時だ。だから、わたしは悪人が葬儀をしてもらうのも、聖なる場所に出入りするのも、また、正しい人が町で忘れ去られているのも見る。これまた、空しい。」
・コヘレトは人の世で起こるすべてを見て考察した。彼が見たのは太陽の下、すなわち、現世は人が人を支配して苦しめ、悪人が葬られ、聖なる場所に出入りできるのに、町のため働いた正義の人が、町の人から忘れられていることだった。悪は悪の、正義は正義の報いを受けぬ、この不公平ゆえに人の世は空しいとコヘレト考えたと言う。
-コヘレト8:11−14「悪事に対する条令が速やかに実施されないので、人は大胆に悪事をはたらく。罪を犯し百度も悪事をはたらいている者が、なお、長生きしている。にもかかわらず、わたしには分っている。神を畏れる人は、畏れるからこそ幸福になり、悪人は神を畏れないから長生きできず、影のようなもので、決して幸福にはなれない。この地上には空しいことが起こる。善人でありながら、悪人の業の報いを受ける者があり、悪人でありながら。善人の業の報いを受ける者がある。これまた空しいと、わたしは言う。」
・悪事を取り締まる法があっても、法の施行が生ぬるいから、百回も悪事を行い、長生きしている者がいる。神を畏れる人が幸せになり、悪人はその悪のゆえの罰を受けねばならないはずだ。しかし、善人が悪人から災いを受けたり、悪人なのに善人から良い報いを受けたりすることがある。これらの不公平であり、また空しいとわたしコヘレトは言いたい。
-コヘレト8:15−16「それゆえ、わたしは快楽をたたえる。太陽の下、人間にとって、飲み食いし、楽しむ以上の幸福はない。それは、太陽の下、神が彼に与える人生の、日々の労苦に添えられたものなのだ。わたしは知恵を深めてこの地上に起こることを見極め酔うと心を尽し、昼も夜も眠らずに努め、神のすべての業を観察した。まことに、太陽の下に起こるすべてのことを悟ることは、人間にはできない。人間がどんなに労苦し追及しても、悟ることはできず、賢者がそれを知ったと言おうとも、彼も悟ってはいない。」
・人の世の虚しさを感じたコヘレトの関心は快楽に向かう。飲食こそ快楽であり、飲食の快楽こそ苦難の人生に、神が人に与えた慰めであるとコヘレトは言う。しかし、飲食に快楽を求めたら最後、食べても、食べても満足できない、底無し沼に落ちるようなものである。コヘレトは、世のすべてを見極めることなど人間には無理なこと、ましてや、悟ることなどできるはずがないと自省している。さらに世の賢者と言われる人も悟ってはいないはずとコヘレトは言う。コヘレトは人の知恵にも限界を感じ始めている。
2013年5月8日祈祷会(コヘレトの言葉8:1−17、王の権威と人間の限界)
投稿日:2019年8月21日 更新日: