2019年6月6日祈祷会(サムエル記下19章、ダビデのエルサレム帰還)

1.ダビデのエルサレム帰還

・ダビデ軍がアブサロム軍に勝った。アブサロムを支持したイスラエル諸部族は協議し、ダビデを再び王と仰ぐこととした。部族の生き残りのためである。しかし、本心からダビデに服従したのではないことがやがて明らかになる。
―サムエル記下19:9-11「イスラエル諸部族の間に議論が起こった『ダビデ王は敵の手から我々を救い出し、ペリシテの手からも助け出してくださった。だが今は、アブサロムのために国外に逃げておられる。我々が油を注いで王としたアブサロムは戦いで死んでしまった。なぜあなたたちは黙っているばかりで、王を連れ戻そうとしないのか』」。
・ダビデはこのことを聞くと、ユダ部族の長老たちに使いを出し、イスラエル部族よりも先に迎えに来るように指示する。驚くべきことに、アブサロム軍の司令官だった裏切り者アマサを、王国の司令官にするという譲歩も行う。
―サムエル記下19:12-14「王は、祭司ツァドクとアビアタルのもとに人を遣わしてこう言った『ユダの長老たちにこう言ってくれ。あなたたちは王を王宮に連れ戻すのに遅れをとるのか。あなたたちは私の兄弟、私の骨肉ではないか。王を連れ戻すのに遅れをとるのか。アマサに対してはこう言ってくれ。お前は私の骨肉ではないか。ヨアブに代えてこれから先ずっと、お前をわが軍の司令官に任じないなら、神が幾重にも私を罰してくださるように』」。
・そこにあるのは冷徹な計略である。出身母体のユダ族の指示を取り付けるために、これまで忠誠を尽くしてきた将軍ヨアブさえもダビデは切り捨てる。かつての神の人ダビデは、今は計略の人になっている。
―サムエル記下19:15「ダビデはユダのすべての人々の心を動かして一人の人の心のようにした。ユダの人々は王に使者を遣わし、『家臣全員と共に帰還してください』と言った」。
・ダビデはエルサレムまで軍を進め、反乱者たちは競ってダビデの前に膝をかがめた。ダビデは自分を呪ったシムイさえも赦した。
−サムエル記下19:23-24「ダビデは言った。『ツェルヤの息子たちよ、ほうっておいてくれ。お前たちは今日私に敵対するつもりか。今日、イスラエル人が死刑にされてよいものだろうか。今日私がイスラエルの王であることを、私自身が知らないと思うのか』。それからシムイに向かって、『お前を死刑にすることはない』と誓った」。

2.神の人から老政治家になったダビデ

・しかし、帰還のダビデに従ったのは、ダビデの出身部族であるユダの全兵士とイスラエルの半数の兵士であった。
―サムエル記下19:41「王はギルガルへ進んだ。キムハムも共に行き、ユダの全兵士もイスラエルの兵士の半分も王と共に進んだ」。
・イスラエルの残りはダビデの帰還を喜んでいない。ダビデは老王に過ぎず、人々は主導権を巡って争った。
―サムエル記下19:42-44「イスラエルの人々は皆、王のもとに来て、王に言った『なぜ我々の兄弟のユダの人々があなたを奪い取り、王と御家族が直属の兵と共にヨルダン川を渡るのを助けたのですか』。ユダの人々はイスラエルの人々に答えた『王は私たちの近親だからだ。なぜこの事で腹を立てるのだ。我々が王の食物を食べ、贈り物をもらっているとでも言うのか』。イスラエルの人々はユダの人々に言い返した『王のことに関して、私たちには十の持ち分がある。ダビデ王に対してもお前たちより多くの分がある。何故私たちをないがしろにするのだ。私たちの王を呼び戻そうと言ったのは私たちが先ではないか』。しかし、ユダの人々の言葉はイスラエルの人々の言葉よりも激しかった」。
・イスラエル部族の反発は、やがてダビデに対する内乱となっていく。イスラエルの人々は叫んだ「我々はダビデと分け合うものはない」。
―サムエル記下20:1-2「そこにベニヤミン人ビクリの息子でシェバという名のならず者が居合わせた。彼は角笛を吹き鳴らして言った『我々にはダビデと分け合うものはない。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ』。イスラエルの人々は皆ダビデを離れ、ビクリの息子シェバに従った」。
・反乱は鎮圧されるが、不和の根は残る。イスラエル10部族はソロモン死後、ソロモンの子・レハブアム王の即位に反対し、自分たちの王を擁立して王国から独立する。南北王国の分裂である。
―列王記上12:16-17「イスラエルのすべての人々は・・・王に言葉を返した『ダビデの家に我々の受け継ぐ分が少しでもあろうか。エッサイの子と共にする嗣業はない。イスラエルよ、自分の天幕に帰れ。ダビデよ、今後自分の家のことは自分で見るが良い』。こうして、イスラエルの人々は自分の天幕に帰って行った」。
・ここに王政の弱さがある。優れた王もやがてはただの老人になる。神はこのことを、サムエルを通して警告されていた。しかし、民は敵から身を守るために強い王を求めた。
―サムエル記上8:11-18「あなたたちの上に君臨する王の権能は次のとおりである。まず、あなたたちの息子を徴用する。それは、戦車兵や騎兵にして王の戦車の前を走らせ・・・るためである。また、あなたたちの娘を徴用し、香料作り、料理女、パン焼き女にする。また、あなたたちの最上の畑、ぶどう畑、オリーブ畑を没収し、家臣に分け与える。・・・こうして、あなたたちは王の奴隷となる。その日あなたたちは、自分が選んだ王のゆえに、泣き叫ぶ。しかし、主はその日、あなたたちに答えてはくださらない」。

3.その後のダビデを巡って
・やがてダビデは老衰し、民心はダビデから離れる。ダビデの息子アドニヤは父を見限り、「自分が王になる」と宣言した。
−列王記上1:1-6「ダビデ王は多くの日を重ねて老人になり、衣を何枚着せられても暖まらなかった・・・ハギトの子アドニヤは思い上がって、「私が王になる」と言い、戦車と馬と五十人の護衛兵をそろえた。・・・彼の体格もまた堂々としており、アブサロムの次に生まれた子であった」。
・その彼もソロモンとの王位継承争いに敗れ、殺されていく。
−列王記上2:25「ソロモン王はヨヤダの子ベナヤを送ってアドニヤを討たせたので、アドニヤは死んだ」。
・権力は常に血が伴う。ギボン「ローマ帝国衰亡史」によれば、歴代のローマ皇帝の三人に二人は暗殺や自殺で命を落としている。イエスは私たちに「あなたがたも暗殺や自殺で終わるような人生を歩みたいのか、この世で第一人者、大いなる者になるとはそういう生涯なのだ」と示す。そして「そのような虚しい人生ではなく、本当に意味のある人生、仕える人生を歩みなさい」と勧める。
−マルコ10:42-45「あなたがたも知っているように、異邦人の間では、支配者と見なされている人々が民を支配し、偉い人たちが権力を振るっている。しかし、あなたがたの間ではそうではない。あなたがたの中で偉くなりたい者は皆に仕える者になり、一番上になりたい者はすべての人の僕になりなさい。人の子は仕えられるためではなく仕えるために、また多くの人の身代金として自分の命を献げるために来たのである。」
・ユダヤ教神学者ラピーデは語る「新約聖書はギリシャ語で書かれており、救いか滅びか、神かサタンかという『あれかこれか』の思考が為される。それに対してヘブライ聖書は『あれもこれも』の思考で書かれている。ダビデは偉大な王であると同時に一人の姦通者でもある」(フランクルとラピーデの対話「人生の意味と神」から)。非常に説得力のある言葉だと思う。